連載の最終パートは、 その2・獲得したい結果 で「後回し」にしていた、3ヶ月無増悪生存比率を主要評価項目としていることに関する解説です。
今回のCBP501臨床第2相試験の主要評価項目は、少し耳慣れない「3ヶ月無増悪生存の比率」です。
聞き慣れた「無増悪生存期間の長短を群間で比較して差を確認する」ではありません。
その背景には、免疫系抗がん剤の効き方の特徴があります。
縦軸に生存率・横軸に生存期間を取った「生存曲線」(カプラン・マイヤー曲線)でご説明します。
何も処置しない場合、生存曲線はグレーの線になります。
従来型抗がん剤は、このラインを水色の場所に動かす効果が期待されてきました。分子標的薬もこのような効き方を示します。
この「横の変化」は、「余命が数カ月延びる」という形で現れます。
最終的には「全生存期間」で比較しますが、臨床試験の各段階での評価においては代わりに「無増悪生存期間」が採用されることが多く、皆さんもよく耳にしてきたと思います。
投与群と対照群の差は、群ごとの中央値で確認することになります。
群ごとの中央値の違いは実際にあり、もちろん効いていると言えるのですが、ひとりひとりの患者様に「効いた実感」は少ないかもしれません。
また、統計的な有意差(偶然で生じたものではないと認められる差)を証明するための試験には、比較的多くの症例数が必要です。
そのため、試験の規模は大きくなりがちです。
一方、免疫系抗がん剤は従来型抗がん剤と異なる効き方をします。
効く人の率は残念ながら少ないのですが、何割かの患者様に対しては、数ヶ月単位でない、とても長い余命を提供するのです。
生存曲線で描くと、緑色の線です。
つまり、従来型抗がん剤の実力が横軸「期間」に現れるのに対し、免疫系抗がん剤の実力は縦軸「率」に現れるのです。
効いた患者様にとっても、具体的にご自分に効いた実感を持ちやすい効き方です。
この特徴が、抗がん剤臨床開発のパラダイムを変えました。
私たちが以前のブログで「抗がん剤開発のパラダイムシフト」と書いていたものです。
免疫のブレーキをはずす免疫系抗がん剤の効果が臨床試験で証明されたことによって、抗がん剤開発の目標は、「余命を数ヶ月延長すること」から「長い余命をより多くの人に提供すること」、ひいては「治癒」へと、劇的に変わり始めたのです。
ただ残念なことに、今のところ免疫系抗がん剤の効くがんは限られます。
効く人の率も高くありません。
現在数多く進められている併用試験は、免疫系抗がん剤の持つこれら2つの弱点の改善、すなわち
「効かないがんに効かせる」
「効く率を高める」
を目指しています。
私たちのCBP501もそうです。
CBP501臨床第2相試験の対象は「膵臓がん3次治療」という、これまで有効な治療のない領域です。
この領域では、免疫系抗がん剤単剤ではほぼ効かないというデータが積み上がっています。
数多く進められている併用臨床試験も、残念ながら捗々しい結果を出せていません。
そんな中でCBP501を含む3剤併用は、症例数の少ないフェーズ1b試験ではあるものの、膵臓がん3次治療で「3ヶ月無増悪生存35%」という結果を出しました。
ちなみに免疫系抗がん剤単剤では、膵臓がん3次治療の3ヶ月無増悪生存は10%程度です。
これが35%となることは十分に「効いた」と呼べる差であり、次の最終証明のための試験を実施する価値があると判断できます。
また、「免疫系抗がん剤単剤で膵臓がん3次治療の3ヶ月無増悪生存は10%程度」というデータは、何度試験をしてもほぼ変わらない、いわば「固い」数字です。
1次治療・2次治療では患者様の状態のばらつきが大きいので結果がブレやすいのですが、3次治療ではそのブレが小さいことがわかっています。
そこで私たちは、
CBP501臨床第2相試験を実施することにしたわけです。
中央値の比較でなく効いた症例数のカウントなので、試験規模を小さくできる経済的メリットがあります。
また、「感触」を比較的早期に掴めるという利点もあります。
限られた時間と予算の中で、最大限の成果を獲得するための試験として、今回のCBP501は設計され、進められているのです。
(連載の終わりに に続きます)
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