マネジメントブログ

決算説明会トピック:CBT005解説

本日、2022年6月期第2四半期決算説明会(アナリスト・機関投資家・メディア向け)を開催しました。
使用したプレゼンテーション資料は、こちらに掲載しています

今日のブログでは、このプレゼンテーション資料の18・19ページでCBT005について河邊がご説明した内容を文字起こしでお伝えします。

CBT005の基礎データ

まず、基礎データです。
このデータだけを見ると「なんだ、大したことないじゃん」と思われるかも知れません。
ポイントが2つあります。

まず、腫瘍の大きさです。
マウスの皮下に植えた腫瘍が成長する様子を示したグラフなのですが、治療開始時の腫瘍の大きさが 180 mm3 くらいの大きさになっています。

NatureやCell・Scienceなど一流紙に掲載される免疫系抗がん剤の文献で同様のグラフをよく見ていただくと、治療開始時の腫瘍のサイズはほとんどが 50mm3 以下、大きめなものでも 100mm3 以下です。
この「100mm3 以下か 100mm3 超か」は、免疫系抗がん剤にとってとても大きな違いです。
免疫系抗がん剤は、マウスで 100mm3 以上のサイズに成長している腫瘍には基本的に効かないからです。
マウスで大きなサイズで効く薬剤でないとヒトではほぼ効かないだろうと私は考えていて、キャンバスにおける基礎研究は綺麗な論文を発表するためではなくあくまでもビジネスの範囲(=ヒトで効く薬剤の探索)でやるべきなので、最初からこのサイズで試験をしています。

もうひとつのポイントは、このデータの裏にある膨大な量のネガティブデータです。

臨床開発のように表に見える活動はまさに「氷山の一角」です。事業に結びつくまで時間がかかるし情報も出ないので、外部から見ると何もやっていないように見られるかもしれませんが、水面下の活動の量と質がキャンバスの力の源泉です。
キャンバス社内では、論文などで「これが次世代の抗がん剤」と持て囃されるものも含むたくさんの試験をしていますが、社内の動物実験において「CBP501+シスプラチン+抗CTLA-4抗体」の3剤併用を上回る組み合わせはこれまでありませんでした。

今回のCBT005を含む4剤併用は、その3剤併用を見出してから初めて、これを上回るデータを社内動物実験で示したものです。

CBT005のコンセプト

次にメカニズムについては、本当はとても細かいところまでお話ししたいところなのですが、なかなか理解が難しいことと、競争の激しい領域で知財化の途上のためあまり具体的にお話しすることができない事情のため、今回はマンガでコンセプトだけお伝えすることにしました。

ご存じのように、がんの大部分はそう簡単に治りませんから、できるだけたくさんの種類の作用機序の抗がん剤を揃えたいというのが世の中のニーズです。
特に免疫系抗がん剤については、標的となり得る分子がとても多く、それぞれについて各社がしのぎを削って開発を進めています。
もちろんキャンバスもそのひとつです。

CBT005は、それらの中で一番重要なキーとなるのはどこなのかという検討を積み上げた結果たどり着いたコンセプトで生まれました。
たどり着いてみると、昔から言われてきた根本のところにいました。

昔から、「がんは治らない傷だ」と呼んでいる人々がありました。
実際に、最近の科学の進展で免疫のメカニズムが明らかになるにつれて、その呼び方の正しさがわかってきています。

このマンガの左端の出火は、細菌感染やウイルス感染など異物が入ってきた状態、刃物で負った傷、がんなどで組織が壊れたり傷んだりした状態を表しています。
それらの場合すべて共通で、まず免疫細胞たちがそこに駆けつけ、初期消火を始めます。

初期消火で手に負えなかった場合、ふつうは援軍を要請します。
実際には、抗原提示細胞やマクロファージがサイトカインやケモカインを出し、T細胞などを呼んできて、駆けつけた援軍が急いで消火をします。
これが炎症です。

それが上手く行き鎮火すると、そのあとも消火作業を続けていると自己免疫疾患になってしまいますから、ただちに消火作業を終了させ、修復作業に入ります。

これが、ふつうの「治る傷」の流れです。

がんが「治らない傷」と呼ばれているのは、初期消火にあたったお兄さんが
「大丈夫、オレだけで消火できるから、T細胞や他の免疫援軍のみんなは来なくていいよ」
という誤った消火作業終了指令を伝えてしまい、免疫抑制的な状態になったままだらだらと火が燃え続けてしまうからです。

CBT005がやっていることは、「初期消火に来たお兄さんの考えを変えさせる」というイメージです。
初期消火に来た細胞が「援軍不要」という指令を出すスイッチを「援軍必要」に切り替えるものです。

コンセプト的には「そんなことがもしできたらいいな」と多くの科学者が考えています。
しかし、もしそれを全身でやったら自己免疫疾患になってしまいますから、がんの局所でだけそれをやる難しさがありました。
今回、CBT005は、ひょっとしたらそれができたかもしれないというデータを示しています。

「そうは言ってもまだ基礎研究段階だし、論文も出ていないのだから、これから何年も何十年もかかるんじゃないのか」と思われるかもしれません。
ですが、このコンセプトは多くの人が「できたらいいな」と考えてきたものなので、かなり早い時期からパートナーが見つかる可能性もあると期待して現在アライアンス活動を実施しており、初期的な感触としては手応えを感じています。