マネジメントブログ

「企業価値を向上するためのファイナンス」は未だ途上です

11月4日公表のとおり、2022年11月3日の行使をもって、第17回新株予約権5,555,400株すべての行使が完了しました。
これによる調達資金は2,384百万円。
当初想定調達額2,000百万円を384百万円上回りました。
偶然、途中で第4回転換社債の一部を買入消却した際のキャッシュ支出383百万円とちょうど同じくらい、調達超過になったことになります。

この一連のファイナンスの実行とその後の経緯においては、株主・投資家の皆様の多大なご支援を賜りました。
おかげさまで、先日公表したとおりCBP501臨床第2相試験は成功(主要評価項目達成)に至り、それだけでなく、次のステップをしっかりと検討し準備するための費用も確保することができました。

ここで、2021年9月に第17回新株予約権と第4回転換社債の発行を発表した際に私の書いたブログ記事『企業価値評価を向上するための資金調達』(2021年9月2日)の振り返りをしておくことにします。

「いわゆる希薄化率のとても高いファイナンスで、既存株主の皆様に短期的にご心配をおかけするかもしれません」

「しかし、開発資金調達への懸念の解消にならない小規模なファイナンスを繰り返すのではなく、次の段階の開発資金として十分な規模のファイナンスを実行することが、当社の中長期的な企業価値向上にはより有効であると判断しました」

「今回のファイナンスによってCBP501の価値は、少なくとも臨床第3相試験の入り口まで、製薬企業等に分けることなく100%が株主・投資家の皆様のものとなります」

「ファイナンスによって得ることのできる調達金額を上回る価値を創出できれば、ファイナンス前よりも株価は上がります」

私は、このように書いていました。(余談ですが、このブログ記事の『「提携がないとダメ」は本当でしょうか?』の部分もこの機会にぜひご再読ください。)

その頃の当社の株価は350円前後、時価総額は約30億円でした。
それが20億円(社債を含めると27.5億円)もの調達をするのですから、それによって増加する潜在株数は、当時の発行済株式総数に対して最大で100%近いものでした。
これを一般に「希薄化率」といいます。

ここから、ファイナンスに関する私加登住の持論の話です。(いくつか大胆に単純化しています。細かい話は別の機会に。)

時価で資本を調達すると、理屈上の企業価値は、ファイナンス前の企業価値とファイナンス額の単純な足し算になります。
たとえば資金調達前の企業価値(時価総額)が200億円の会社が時価で20億円調達したとき、資金調達直後の企業価値は220億円です。
まだ遣っていない20億円の価値は20億円ですから。
企業価値が1割増えましたが、株数も1割増えているので、一株あたりの企業価値すなわち株価は変わりません。
「実際には増資の発表で株価が下がるじゃないか!」と思われたでしょうけれど、それはこの理屈とは別の要因です。たとえば数十年前には、増資の発表で株価が上昇するほうが一般的でした。

その後、たとえばその20億円を使って60億円の企業価値を創出できたら、企業価値は260億円になります。
企業価値はファイナンス前よりも3割増えましたが、株数は1割しか増えていないので、その違いのぶんだけ一株あたりの企業価値すなわち株価は上がります。

つまり、「資金調達をして企業価値が上がる」とは、単純化すると、調達した資金を使って調達額を上回る企業価値を創出するということなのです。
私が2021年9月に標榜した「企業価値を向上するための資金調達」とは、
「調達する資金を使って、その金額以上に企業価値を創出する」
つまり
「調達前よりも一株あたりの企業価値を上げる」
ということです。

最初に書いたとおり大胆に単純化しているので、これ以外のさまざまな要因で動く株式市場での株価やその掛け算で算出される時価総額にこの考え方をそのまま当てはめることはできません。
しかし、基本の考え方としては、未上場であれ上場後であれ、私たちのような先行投資段階の企業が資金調達をするときに普遍的な、最も重要なもののひとつです。
私はこれまで35年余りのビジネスキャリアの半分を、スタートアップや未上場企業へ投資する「ベンチャーキャピタル」で過ごしました。その間、これを基本として叩き込まれています。

株式発行を伴うファイナンス(エクイティファイナンス)をもっぱら資金不足を補うために繰り返すのを「株券印刷業」と呼ぶ人があります。
しかし一方で、株式を発行して調達したリスクマネーで事業を進めるしくみは、400年以上の歴史を持つ株式会社というしくみの根幹でもあります。
それらの違いは、ここで書いている「企業価値向上」の違いだと私は考えています。

塩水に真水を加えるのは「希薄化」です。
しかし、元よりも濃い塩水を加えるなら、話は違います。
私たちが設立以来これまで多数実施してきたエクイティファイナンスは、株数こそ増加しますが、企業価値の「希薄化」にしないこと、むしろ濃くすることを目指してきました。

短期的な株価は市場環境や局地的な需給などに左右されがちで当てになりませんが、数ヶ月単位以上のスパンでみた「水準」の変化に対しては、私たちは責任を負う立場にあります。
ファイナンスのたびに私たちは、ファイナンス前の水準に調達資金額を加えた、新たな水準以上でご評価いただけるようにしなければならないと考えてきました。

現在、一連のファイナンスで調達させていただいた資金の多くがまだ手元現預金に残っています。
この資金は、現在進行中の臨床第2相試験ステージ1の終盤に活用させていただくとともに、「臨床第3相試験の準備費用」やその後の臨床試験の費用に使わせていただくと、既に公表済みです。
この手元現預金を活用してさらなる企業価値の創出向上を実現することが、現在の私たちに課せられた仕事と考えています。

家に帰るまでが遠足であるのと同様に、調達した資金で企業価値を向上させるまでがファイナンスです。
その意味で、このブログの表題どおり、「企業価値を向上するためのファイナンス」は未だ途上です。

成功(主要評価項目達成)のニュースでつい勘違いされがちですが、CBP501の臨床第2相試験ステージ1は現在も継続中で、データは日々更新されています。
同じ「成功」でも、より価値のある成功になるかどうかがこれから決まっていきます。
その情報のうち投資家の投資判断に重要な影響を及ぼすものは、従来と同様にこれからも随時公表していきます。
(いや本当に、勘違いしないでくださいね!)

また、これから得られるデータは、これまで以上に、次のステップの臨床試験の設計を最適なものにするための重要な判断材料です。
ここで次のステップをしっかりと検討し準備することが、これからの成功確率を左右します。

幸いなことに私たちは、昨年実施したファイナンスで、当初想定に沿った(見方によってはそれ以上の)資金を株式市場から調達することができました。
この事実は、株主・投資家の皆様から私たちへの
「この資金を使ってキャンバスの企業価値をさらに創出向上させなさい」
というご付託と認識しています。
このご期待に応えるべく今後も企業価値向上に取り組んでまいりますので、ぜひ引き続きご注目ください。