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今日公表のESMOアブストラクトを解説します

本日、CBP501臨床第2相試験結果に関する欧州臨床腫瘍学会(ESMO)発表のアブストラクトが公表されました
このブログ記事で、その内容や用語を解説します。

ご留意事項

はじめに、アブストラクトやこの解説をお読みいただく際のご留意事項です。

  1. アブストラクトは、文中にも出てくるとおり2022年10月17日までに判明していたデータに基づいています。その後データカットオフ(2023年4月)までに判明した数値は、後日のポスター発表に反映されます。したがってひとつひとつの数値は最終的に上下するため、ここでは数値自体の解説はしません。
  2. この試験は群間の比較試験ではなく、各群のどれが次相臨床試験に進む価値があるかを「3ヶ月無増悪生存率(3M PFSR)35%」のハードルで個別に判断するために設計されたものです。「3M PFSRが35%を超えるかどうか」以外の情報(奏効や無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)など)について統計的に意味のある議論はできません。次相臨床試験や医薬品承認申請の成功確率の「感触」をつかむ材料としてお読みください。

アブストラクト解説

Background
Metastatic pancreatic adenocarcinoma is an aggressive disease with no standard-of-care treatment option in the third line. CBP501 is a 12-amino acid G2 checkpoint abrogator and calmodulin-modulating peptide that increases platinum influx into tumor cells and suppresses the platinum-induced release of cytokines by macrophages. It also enhances the anti-tumor activity in combination with anti-programmed cell death-1 (anti-PD-1).

参考訳
転移性膵臓腺がんは進行の速い疾患であり、3次治療での標準治療の選択肢はない。
CBP501は12アミノ酸からなるG2チェックポイント阻害薬およびカルモジュリン調節ペプチドで、がん細胞へのプラチナ製剤の流入を増やし、プラチナ製剤が誘発するマクロファージによるサイトカイン放出を抑制する。
また、免疫チェックポイント阻害抗体との併用で抗がん活性を増強する。

試験の背景の説明です。

「膵臓腺がん」という語が出てきましたが、いわゆる膵臓がんのことです。膵臓がんの大半を占め、通常型膵臓がんなどとも呼ばれています。
内容は参考訳をお読みいただいたとおりなので省略します。

Methods
This multicenter, randomized phase 2 study included patients with metastatic pancreatic adenocarcinoma who failed two lines of systemic therapy and had a white blood cell count <10,000/mm3. Patients were stratified by ECOG performance status (0 vs 1) and liver metastasis (present vs absent) and randomized 1:1:1:1 to arm 1 – CBP501 25 mg/m2 + cisplatin 60 mg/m2 + nivolumab 240 mg; arm 2 – CBP501 16 mg/m2 + cisplatin 60 mg/m2 + nivolumab 240 mg; arm 3 – CBP501 25 mg/m2 + cisplatin 60 mg/m2; or arm 4 – cisplatin 60 mg/m2 + nivolumab 240 mg. Patients received 4 cycles of combination therapy followed by 6 cycles of nivolumab every 21 days in the absence of disease progression (nivolumab arms only). The primary endpoint was the three-month progression-free survival rate (3M PFSR) in the intention-to-treat population. Secondary endpoints included safety, PFS, objective response rate (ORR) and overall survival (OS).

参考訳
この多施設共同無作為化第2相試験は、1次・2次の投薬治療が無効で白血球数が10,000/mm3未満の転移性膵臓腺がん患者を対象とした。
患者はECOGステータス(0と1)、肝転移(有と無)で層別化され、
第1群:CBP501 25mg/m2 + シスプラチン 60mg/m2 + ニボルマブ 240mg
第2群:CBP501 16mg/m2 + シスプラチン 60mg/m2 + ニボルマブ 240mg
第3群:CBP501 25mg/m2 + シスプラチン 60mg/m2
第4群:シスプラチン60mg/m2 + ニボルマブ240mg
に1:1:1:1で無作為に割付けられた。患者は併用療法を4サイクル受けた後、病勢進行がなければニボルマブを21日ごとに6サイクル受けた(ニボルマブを含む群のみ)。
主要評価項目はITT集団における3ヶ月無増悪生存率(3M PFSR)、副次的評価項目は安全性、PFS、客観的奏効率(ORR)、全生存期間(OS)であった。

試験の方法の説明です。これも内容は参考訳のとおりなので省略し、用語の解説のみ。

ECOGステータスとは、疾患が日常生活を制約している度合いを数値化したものです。発症前と同じ日常生活のできる状態が0、激しい運動は制限されるものの歩くことはでき軽い家事や事務作業もできる状態が1です。2(歩行可能で1日の半分以上を起きて過ごしているが作業はできない状態)以上の方は今回の臨床試験の組入除外となっています。
層別化とは、結果に影響を及ぼすことがわかっている因子を持っている人がどれかの群に偏らず均等に分かれるように、無作為化(ランダム化。くじ引きのようなものです)割付の前に操作しておくことです。臨床試験で一般におこなわれる操作です。
ITT集団とは「臨床試験に割り付けられた人全員」という意味です。割付実施後は何が起きようとも(たとえば気が変わって途中離脱した人や、1回目の投与の前に亡くなった人であっても)すべて投与したものとみなして、解析の対象に含みます。この解析手法は実際の臨床現場での有効性をより良く反映すると考えられることから、後期臨床試験のフェアな解析手法として推奨されています。

Results
As of October 17, 2022, efficacy was evaluable in 33/36 patients. 3M PFSR were 44%, 22%, 11% and 33% in the treatment arms 1, 2, 3 and 4, respectively.  ORR were 22% in arm 1 (2 partial responses), 0% in treatment arms 2, 3 and 4. Median PFS were 2.8, 2.1, 1.5 and 1.5 months, respectively. Median OS was not reached in treatment arm 1 and 7.0, 2.7 and 3.8 months in treatment arms 2, 3 and 4. The most common adverse events (AEs) were infusion-related reaction in 18/25 (76%; grade 1-2) and anemia in 2/33 (6.1%; both grade 3). Serious adverse events (SAEs) were reported in 14/33 (42%); 13 SAEs were unrelated to CBP501. One SAE (acute renal failure) occurred in treatment arm 3 (CBP501 + cisplatin) after 1 cycle and was deemed to be possibly related to CBP501 and definitely related to cisplatin.

参考訳
2022年10月17日時点で、36例中33例の患者において有効性の評価ができた。
3ヶ月無増悪生存率(3M PFSR)は治療群1、2、3、4でそれぞれ44%、22%、11%、33%だった。
奏効率(ORR)は第1群で22%(部分奏効2例)、他の群では0%であった。
無増悪生存期間(PFS)の中央値はそれぞれ2.8ヵ月、2.1ヵ月、1.5ヵ月、1.5ヵ月であった。
全生存期間(OS)の中央値は、第1群では未到達、治療群2、3、4ではそれぞれ7.0ヵ月、2.7ヵ月、3.8ヵ月であった。
主な有害事象(AE)は、点滴反応が18/25例(76%;グレード1-2)、貧血が2/33例(6.1%;いずれもグレード3)であった。重篤な有害事象(SAE)は14/33例(42%)で報告された。うち13例はCBP501と無関係であった。残り1つのSAE(急性腎不全)は1サイクル後の第3群(CBP501+シスプラチン)で発生し、これはシスプラチンに確実に関連するとともにCBP501に関連する可能性も考えられる。

結果の説明です。

冒頭にあるとおり昨年10月時点のデータなので、その頃に私たちが公表していた中間ご報告(たとえばこちらや、その一部訂正開示)と大きな違いはありません。集計方法などの違いによる細かい数字の違いのみです。
倫理上の配慮で投与群の特定を回避するために、これら会社からの公表資料では投与群2-1と投与群2-2の順序を入れ替えていました(第3群が投与群2-2、第4群が投与群2-1です)ので、読み比べる際にはご留意ください。
有害事象については、既にお知らせしているようにCBP501は点滴時に発疹ができ痒くなることが多く、これがグレード1-2の点滴反応としてカウントされていますから、数値の大きさほどの心配はありません。なお、その発疹や痒みは抗ヒスタミン剤の投与で対応できています。

Conclusions
Preliminary results indicate a clinically meaningful improvement and tolerable safety of CBP501, cisplatin and nivolumab as 3rd line treatment for metastatic pancreatic adenocarcinoma.

(参考訳)
この中間結果は、CBP501・シスプラチン・ニボルマブ3剤併用投与について、転移性膵臓腺がん3次治療として臨床的に意義のある改善と忍容可能な安全性を示している。

結論の説明です。

「ふむふむなるほど」とさらりと読み流されてしまいそうですが、この文中の臨床的に意義のある改善(clinically meaningful improvement)という表現は非常に重いことばです。統計的に差があることをどれほど証明しようとも、それが臨床的に意義のない改善であれば医薬品は承認されないし、仮に承認されても使われないからです。
この臨床試験の統括責任医師(PI)であるミシガン大学Enzler医師が結論の中でこの語を使っていることは、私たちにとってとても勇気づけられるものです。

なお、アブストラクトの時点では中間的・予備的なデータしかないので「この中間結果」と書かれています。データカットオフ後の確定数値に基づくポスター発表では表現が変わります。

付記

冒頭でご留意事項として書いたとおり、この試験は各群の3ヶ月無増悪生存率を見るためのものです。
CBP501を含む3剤併用投与群の2群でその目的(95%の確率で、3ヶ月無増悪生存率が35%を超えることの統計的証明)を達成しました。
その他の、たとえば奏効率・無増悪生存期間・全生存期間の数値や群と群の間の比較については、統計的に意味のあることは、良くも悪くもこのデータからは何も言えません。

数日後には学会発表ポスターが公表されます。著作権などの関係でどこまで細かいことをお伝えできるかわかりませんが、可能な限りの情報を私たちからもお届けすることにしています。

CBP501を含む3剤併用投与群の2群が、「3ヶ月無増悪生存率が35%を超えることを統計的に(95%の確かさで言えると)証明する」という目的を達成した。
他の2つの群は、これを証明できなかった。

最も重要なこの事実は、後日のポスター発表でも変わりありません。
また、繰り返しお伝えしているとおり、その他のデータについても大きな傾向に変動はなく、そこから得られる手応えも揺るぎません。

「これまでの中間報告どおりなら、学会発表には意味がないじゃないか」
と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
これまでは私たちが会社の立場で公表してきた(ある意味で客観性の乏しい)情報が、臨床試験に参加した医師・科学者たちによって発表され、客観性の裏打ちされた状態で周知されるという点が、学会発表や論文発表の意義です。