マネジメントブログ

ESMOポスター発表について解説します

CBP501臨床第2相試験結果がESMOでポスター発表されました。
この内容について、要点をかいつまんでご説明します。
既にアブストラクト公表の際にご説明した部分は省略しているので、適宜その際のブログ記事もご参照ください。

Introduction〜Objectives〜Methods

転移性膵臓腺がん(PDAC。いわゆる膵臓がんの大半を占める)の背景説明、CBP501の説明、臨床試験概要、実施した試験内容の説明です。
アブストラクトのBackground・Methodsの内容と重複する内容に、フレミングの2ステージデザインの説明が加わっています。

フレミングの2ステージデザインを採用した。ステージ1では、3ヶ月時点で無増悪の患者が1人以下の群は早期無効中止、4人以上の群は早期有効中止とされ、帰無仮説は棄却(統計的に、偶然ではないと判断すること)される。それ以外の場合はステージ2として14人の患者を追加登録する。

《用語解説》
ECOGステータス:疾患が日常生活を制約している度合いを数値化したもの。発症前と同じ日常生活のできる状態が0、激しい運動は制限されるものの歩くことはでき軽い家事や事務作業もできる状態が1です。2(歩行可能で1日の50%以上をを起きて過ごしているが作業はできない状態)以上の患者は今回の臨床試験の組入除外となっています。
層別化:結果に影響を及ぼすことがわかっている因子を持っている人がどれかの群に偏らず均等に分かれるように、無作為化(ランダム化)割付の前に操作しておくこと。臨床試験で一般におこなわれる操作です。
ITT集団:「臨床試験に割り付けられた人全員」という意味。割付実施後は何が起きようとも(たとえば気が変わって途中離脱した人や、1回目の投与の前に亡くなった人であっても)すべて投与したものとみなして、解析の対象に含みます。この解析手法は実際の臨床現場での有効性をより良く反映すると考えられることから、後期臨床試験のフェアな解析手法として推奨されています。

Results

組入れられた患者の特徴

2021年12月9日から2022年8月3日の間に、米国内14施設で合計36人の患者が登録され、各9人の患者が4群に無作為に割付けられた。
全体の年齢中央値は69.0歳(最年少41~最年長81歳)、男性(19人、52.8%)・白人(32人、88.9%)・試験開始時のECOGステータス1(23人、63.9%)が多数であった。
大半の患者は肝転移があり(24人、66.7%)、中央値で3ラインの投薬療法を受けていた(注:つまり、多くは4次以降の治療としてこの臨床試験を受けています)。
人口統計学的特徴および治療前状態の特徴について、群間で統計的に意味のある差はなかった。

組入患者の特徴や層別化・無作為化に、この臨床試験の全体としての患者集団や群間に偏りのあるような特異性がないことが説明されています。

主要評価項目

有効性:主要評価項目(3ヶ月無増悪生存率)
第1群と第2群は、本試験であらかじめ設定された主要評価項目のハードル(3ヶ月無増悪生存率35%)を達成した。
CBP501投与群で良好な結果が得られたことから、安全性モニタリング委員会は2022年10月28日、すべての群についてステージ2に進まないことを推奨した。
(注)腫瘍測定評価のスケジュールと訪問可能な期間を考慮し、無作為化から81日超の無増悪生存を3ヶ月無増悪生存として3ヶ月無増悪生存率を算出している。

主要評価項目である3ヶ月無増悪生存率(3M PFSR)が示されています。
当社からのこれまでの中間ご報告どおり、投与群1、2、3、4でそれぞれ44.4%、44.4%、11.1%、33.3%でした。

なお、下の段に示されている「90%信頼区間の下限値」とは、「統計的に、90%の信頼度で言える真の値の下限値」という意味です。フレミングの2ステージデザインではない別の統計手法で計算すると、9件終了時に3M-PFSが4件であれば「90%の信頼度で、3ヶ月無増悪生存率21.04%以上であると言える」という計算になるので、この表示が添えられています。
全体36件のほうを見ると「90%の信頼度で、3ヶ月無増悪生存率22.85%以上と言える」と、実際の数値は33%で第1群よりも低いのに、90%の信頼度で言える数字が上がっているのを不思議に感じられるかもしれません。統計に親しんでいないと直感的にわかりづらいのですが、「サンプルサイズが大きくなると、同じ信頼度で言えることの幅が狭まる」と大まかにご理解ください。

副次的評価項目

有効性:副次的評価項目

無増悪生存
最初の2行は、各群9人の患者の解析終了要因の説明です。上から順に、Event(がんの増悪確認または死亡)、その内訳として「がんの増悪」「死亡」、それ以外のCensored Observation(離脱などによる測定打ち切り)の件数が示されています。
無増悪生存期間は、中央値がそれぞれ2.8ヵ月、2.1ヵ月、1.6ヵ月、1.5ヵ月と示されました。
6ヶ月無増悪生存率は、15.6%、11.1%、0、12.5%でした。

群の間に差があるように見えますが、それぞれ次の段に示されている95%信頼区間(95%の信頼度で言える真の値)の幅がどれも非常に広いことから、統計的に明確に言える差ではないことがわかります。現段階ではあくまでも、サンプルサイズの大きな次の試験で証明する価値の「感触」の差であることにご留意ください。
なお、ベースライン後に一度も腫瘍測定評価が実施されずに死亡が確認された場合は、無作為化時点で打ち切られています。無増悪生存期間0日とカウントされたことになります。

客観的奏効率
奏効率は第1群で22.2%(部分奏効2例)、他の群では0%でした。
奏効・安定などの判定に使っているのは、RECISTという国際的な基準です。治療開始前の測定で標的病変を決め、そのときのサイズ「ベースライン」をもとに増悪や縮小を測定・判定するものです。
何度かの測定でそれまでの最小の値を一度でも20%上回ってしまうと「進行」と判定されます。仮にいちどベースラインの半分になっていたとしても、次の測定でそこから20%以上増えてしまうと、まだベースラインより小さい状態ですが進行判定です。
一度も進行と判定されずに、ベースラインよりも長径が30%以上減少した状態が複数回の測定で続いたものが初めて「部分奏効」と呼ばれます。がんの体積でいうと概ね半分以下になっています。治療開始前に決めた標的病変以外の場所にがんが発生したら進行(増悪)とされるなど、細かいルールも多数あります。

ここに示されている数値も、95%信頼区間の幅がどれも非常に広いことから、統計的に明確に言える差ではないことがわかります。
とはいえ、かねてからお伝えしているように、膵臓がん3次治療以降で奏効(がんの縮小)が出ることはまずありません。それを知っている人には、0%でないだけで驚かれる数値です。

病勢コントロール率
完全奏効(がんの消滅)・部分奏効(がんの縮小)をカウントする「奏効率」に、病勢安定(がんのサイズが一定期間以上変化しない)の率を加えたものが病勢コントロール率です。
投与群1、2、3、4でそれぞれ33.3%、11.1%、0、33.3%でした。

これも、95%信頼区間の幅がどれも非常に広いことから、統計的に明確に言える差ではありません。

奏効期間
完全奏効または部分奏効と判定された時点から、再発または増悪が客観的に確認された最初の日までの期間を、奏効期間(DOR)といいます。
第1群の中央値は124.5日、他の群は奏効がなかったので0日でした。
95%信頼区間を見ると、第1群については「95%の信頼度で、奏効した場合の奏効期間の中央値の真の値が107日以上であると言える」ことがわかります。
また、今回の学会発表ではポスターのスペースの制約で生存曲線(カプランマイヤー曲線)が公表されていませんが、この数値から「効いた患者さんでは持続的に効いた」こともわかります。

全生存
全生存期間(OS)の中央値はそれぞれ6.3ヵ月、5.3ヵ月、3.7ヵ月、4.9ヵ月と示されました。
これも95%信頼区間の幅が広く統計的に明確に言える差ではありませんが、これまでの中間ご報告と同じ傾向が示されています。
なお、傾向・感触のつかみかたとして、「6.3ヶ月なんて大した生存延長じゃない」と、基準となる数値を見落とした誤解がよくあります。たとえば現行治療のOSが何年もあるようながんの臨床試験データであれば、3ヶ月伸ばしたとしても大した差ではないかもしれません。しかし、この臨床試験の対象である膵臓がん3次治療は現行治療のOSが約3ヶ月ですから、これを基準とすると、+3.3ヶ月(+110%)という、臨床的に大きな差なのです。このことが、結論に出てくる「臨床的に意味のある改善」という表現にも込められています。

安全性
安全性についても報告がありました。表では省略しています。

安全性は33例で評価可能だった(注:実際に1度でも投与された方が33名でした)。
有害事象(TEAE)のほとんどはグレード1~2であった(20例、60.6%)。
投与中断に至ったTEAEは、CBP501に関連する点滴反応(IRR)によるものであった(17例、51.5%)。
治療中止に至ったTEAEは1例(3.0%)に認められ、治療中止の主な理由は病勢進行であった。
CBP501関連のTEAEで最も多かったのは点滴反応(19例、57.6%)で、グレード3のIRRは発生しなかった。
1件のSAE(急性腎障害)のみがCBP501に関連する可能性があった(シスプラチンに確実に関連していた[アーム3])。
1件のTEAE(膵臓がん)は死亡に至ったが、治療とは関連していなかった。

以前からお知らせしているようにCBP501は点滴時に発疹ができ痒くなることが多く、これがグレード1-2の点滴反応としてカウントされますから、数値の大きさほどご心配いただくことはありません。(なお、その発疹や痒みは抗ヒスタミン剤の投与で対応できています。)
点滴反応以外の有害事象は、CBP501を投与しない群も含めた4群の間に目立つ差はないうえ、CBP501の過去の悪性胸膜中皮腫や非小細胞肺がんを対象とした臨床試験の結果とも大きな差異はありません。また、併用療法による新たな懸念も認められませんでした。

Conclusions

結論
CBP501・シスプラチン・ニボルマブの併用療法は、転移性膵臓腺がんに対する3次治療として、忍容性のある安全性で、3ヶ月無増悪生存率、無増悪生存期間および全生存期間において、持続的な奏効と臨床的に意義のある改善をもたらした。この化学免疫併用療法は、さらなる検討を進めるべきである。

お読みいただいたとおり、アブストラクトの時点よりも踏み込んだ明確な記載になっています。
繰り返しになりますが、文中の「臨床的に意義のある改善(clinically meaningful improvement)」という表現は非常に重いことばです。統計的に差があることをどれほど証明しようとも、それが臨床的に意義のない改善であれば医薬品は承認されないし、仮に承認されても使われないからです。

付記

既に報じられているように、このポスター発表に先立ち開催された膵臓がんに関する注目アブストラクトを紹介するセッションにおいて、膵臓がん治療の改善に向けた革新的戦略を探求している臨床試験のひとつとして、このCBP501臨床第2相試験がとりあげられました。
セッション登壇者Benedikt Westphalen医師(ミュンヘン大学病院)から、
「この3剤併用のような化学免疫併用療法は進行膵臓がん治療の新たな地平を開く可能性がある」
とコメントされています。
この詳細はESMO公式メディアDaily Reporterの記事をご参照ください。