キャンバスでは、IRに関するお問い合わせフォームで、投資家の皆様からのご質問を常時お受けしています。
今回のブログでは、最近いただいたご質問とそのメール回答をご紹介します。
Q: 2017年9月12日の適時開示には、「来年(2018年)には安全性、薬物動態、薬力学、有効性に関するアップデート報告を予定している」という記載があります。一方、ClinicalTrials.govには、「2017年10月最終データ収集」「2017年12月治験終了」との記載があります。
CBS9106の臨床第1相試験は2017年末に終了するのかしないのか、どちらなのでしょうか。
抗癌剤の臨床第1相試験は、DLT(用量制限毒性)やMTD(最大耐用量)に到達するまで実施します。度を越して副作用が出ない場合は別ですが。
この一般論に立てば、Stemline社によるCBS9106(SL-801)の臨床第1相試験は2018年に入ってもしばらく続くものと思われます。
効果の発揮される用量と毒性の出る用量の差(セラピューティック・ウィンドウといいます)が大きいほど「良いお薬」です。
したがって、計画どおりの用量漸増が進み、それに従って効果の兆候も上がっている限りにおいては、臨床第1相試験の終了が長引けば長引くほど開発側にとっては良好な状態ということができます。
(資金面などを考えると痛し痒しなのですが。)
なお、Stemline社は最新のプレゼンテーションで、現在進めている用量漸増試験に続く次のステージのCBS9106(SL-801)開発方針を公表しています(23ページ)。
最大4種類の適応癌腫別試験(各20症例まで)
SL-801経口投与。用量と投与方法は現在進行中の用量漸増試験の結果をもとに設定
エンドポイント: ORR(全奏効率)・安全性プロファイル・CR(完全奏効)、DoR(奏効期間)、PFS(無増悪生存期間)、OS(全生存率)
Q: 上記の適時開示で、24症例中9例(37.5%)でSD(安定)という数値が出ていますが、これはとても良い値と考えていいのでしょうか。
用量漸増試験の途上であり、かつ症例数も僅少のため、良い/悪いを定量的に言える状態ではないと考えています。
定性的な感触については社長の河邊が所感をブログに記載していますのでご参照ください。
Q: 以前の臨床試験のサブグループ解析では、白血球数の正常か数値の低い人に有効なデータがあると書かれていましたが、今回のフェーズ1b試験はそのターゲットに絞っているのでしょうか。
今回の臨床試験(フェーズ1b試験)の内容については、こちらをご参照ください。https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03113188
(ClinicanTrials.govは米国国立医学図書館が管理するウェブサイトで、当社が実施したもしくは実施中の臨床試験の情報についてはすべてこちらに登録しています)
ご質問いただいた白血球数についてはInclusion Criteria(組入れ基準)の7番に含まれており、
“white blood cell count (WBC) ≤ upper limit of normal (ULN)”
「白血球数が正常値の上限以下であること」
としております。
すなわち、ご質問にある「白血球数の正常か数値の低い人」との表現で間違いありません。
なお、正常値の上限は、1マイクロリットル当たり8,000~11,000個と、国や施設によって異なります。
Q: そうやって対象患者を絞り込むことで、当初のターゲットの何パーセント減少になるのでしょうか。
その減ったぶんは薬になった場合の価値が減少すると考えて良いでしょうか。
癌の種類、ステージ、初回治療か複数回治療後か、などによって異なりますが、弊社の過去の肺癌・初回治療の場合は、ちょうど50%でした。
後段のご質問には、単純にお答えするのが難しいです。
医薬品の開発においては、「対象の絞り込み」と「成功(効果を証明できる)確率」はトレードオフの関係にあります。
たとえば、他の条件がすべて同一と仮定すると、「A癌の50%を占めるBという特徴を持った患者さんに効くお薬」の価値は、「すべてのA癌に効くお薬」の半分であると言うことは可能です。
ただ、「すべてのA癌に効くお薬」であることを統計的に証明するためには、「Bという特徴を持った患者さんに効くお薬」であることを証明する開発の(おそらく)数倍から十数倍のコストや時間が必要となり、また、対象が広範なぶん統計的な証明が難しくなり成功確率が格段に低下します。
開発プロジェクトの価値という考え方からすると、
「お薬としての規模・価値」×「成功確率」を「成功までの時間軸」で割り戻したもの
が、お薬の現在価値ということになります。
(過去のブログでも少し触れています。)
キャンバスとしては、この「現在価値」を最大化するために、対象を絞り込んでそのぶん成功確率を上げ時間軸を短縮する考えです。
現在の開発計画は、薬剤固有の特徴や周辺環境に鑑みて「CBP501の現在価値を最大化する最も現実的な開発計画」であると考えています。
少々回りくどいご説明になりましたが、ご質問の「ターゲットを絞った分は薬の価値が減少」という点について、「対象を絞り込むことによって成功確率を上げ、価値を高めている」という若干異なる考え方をお伝えした次第です。
なお、「対象の絞り込みと成功(承認獲得)確率」をめぐる熾烈な開発競争の実例は枚挙にいとまがありませんが、最近では、免疫チェックポイント抗体オプジーボとキイトルーダがありました。
その一部を過去のブログでご紹介していますので、お手隙の折にご高覧ください。
Q: 白血球の数が正常値の患者さんにのみ効果があるというしくみがよくわかりません。
免疫の正常・異常とCBP501の薬効メカニズムについて簡潔に教えてください。
CBP501は、癌に対する直接作用の他に癌の周囲で免疫を邪魔する(多くの場合)最大の細胞集団「M2マクロファージ」に作用し、その活動を抑制することによって免疫を働きやすくして、薬効を現すと考えています。
これらの作用自体は、白血球の値に関係なく起きていると見られます。
ただ、それとは別に、白血球数が正常でないほど高い=白血球が活性化されている患者さんにおいては、マクロファージの働きをCBP501が抑制することによって特定の抗癌剤と併用した場合に限り血栓ができやすくなるなど「悪いこと」が起き、その「悪いこと」による影響がCBP501の効果を打ち消してしまっていると考えています。
この点については、過去の決算説明会質疑応答でお伝えしています。
Q. サブグループ解析において白血球の値の低い患者さんにおいて効果が見られたということだが、そうなった理由は何だと考えているのか説明してほしい。
(河邊)基本的に、CBP501の「良いほうの作用」は、白血球の値にかかわらず全部の患者さんに働いていると考えられる。
CBP501はマクロファージのいくつかの働きを抑制しているが、白血球が活性化されている患者さんでのみ、その抑制作用が原因で悪いことが起きてしまっていると考えている。
Q: フェーズ1b試験の進捗状況は、開発全体の中のどの段階なのでしょうか。
今後、第2相、第3相と臨床試験と上手くいってもかなりの年数がかかるのでしょうか。
また、承認された場合の市場規模はどれくらいと予想していますか。
一般に医薬品の開発は、こちらのページの図のような段階を歩みます。
書いてある年数は、製薬協などが公表している平均値です。 臨床第1相試験の開始から臨床第3相試験の終了までの年数はおおむね8年程度とされています。
今回開始したCBP501フェーズ1b試験の今後の進行については未だ確定していません(臨床1b試験のデータを見てから決めるべきことがたくさんあります)。
開始時点の目論見では、こちらの資料の29ページに掲載しているとおり、「臨床1b相試験に2~3年」「臨床第2・3相試験に3~4年」を見込んでいます。
市場規模については、臨床試験でどのような適応(癌腫、投与内容など)に対する効果を証明できるかによって大きく変動します。
このため、現時点で当社は公表しておらず、他薬剤事例との比較などによる各投資家様のご判断に委ねています。
Q: CBP501の說明の中で言及されている「チェックポイント」というのは、オプジーボなどで言われているチェックポイントと意味するところは違うのでしょうか。
「チェックポイント」というのは簡単にいうと「生体内の一連の流れに対する関所あるいはブレーキ」という意味で、ここ20年ほどの間の抗癌剤開発関連で使用される主な例としては次の2つがあります。
細胞周期チェックポイント:
細胞が正しく細胞周期(細胞分裂)を進行させているかどうかを監視(チェック)し、細胞にDNA傷害や不具合がある場合には細胞周期の進行を停止・減速させるしくみ。
おもにG1期とG2期に存在し、それぞれ「G1チェックポイント」「G2チェックポイント」といいます。
免疫チェックポイント:
自分自身、癌細胞あるいは外敵に対する免疫反応が正しく機能しているかどうかを監視(チェック)し、止める必要がある場合には免疫寛容(免疫反応を止めて構わない・止めるべきとする信号など)などによって免疫反応を抑制するしくみ。
ご質問いただいている「オプジーボなどで言われているチェックポイント」とは、免疫チェックポイントのことです。
免疫チェックポイント阻害抗体は、この抑制にブレーキをかけることによって癌細胞に対する免疫反応を強めます。
わかりにくいことに、当社の研究開発にはこのふたつの両方が関係しています。
CBP501やCBS9106は、当社がこれらの薬剤を探索創出する過程で、細胞周期G2チェックポイントへの働きに着目していました。
CBP501は、その後の臨床開発や基礎研究の結果、免疫寛容のために働くM2マクロファージを阻害することがわかり、免疫チェックポイント阻害抗体(オプジーボなど)と併用すると効果が高まるというデータを動物実験でつかみました。
キャンバスのウェブサイトや適時開示においては、それぞれ「G2チェックポイント」「免疫チェックポイント」と必ず記載しています。注意深く読み分けていただくようお願いします。
なお、もし当方の不具合でどちらのチェックポイントかわからない記載がありましたら早々に改めますので、お手数ですがご指摘ください。
実のところ、お問い合わせいただく点のほとんどは、回答の中でひとつひとつリンクで示しているとおり、過去の適時開示やFAQ・ブログで触れてあるものです。
ふだんは、それらをひととおり見ていただいている前提で次の開示を積み上げています。
そのため、たとえば最近キャンバスに興味をお持ちになった個人投資家のかたにとっては、キャンバスの適時開示はわかりにくくなってしまっているようです。
とはいえ、適時開示のたびに毎回、過去にも公表した事実をひとつひとつ遡ってわかりやすく書くのも非現実的です。
当社のインベスターリレーション品質向上を図るのと並行して、今後も時折こうやってお問合わせと回答のご紹介をしていくことで、個人投資家のかたの多くが現在ご興味や疑問をお持ちの点を端的かつできるだけ網羅的にお知らせしたいと思います。
なお、お問合わせはお電話でも対応していますが、質疑の記録を残しやすい(このブログのように再利用できます)・IR担当者の業務時間をコントロールできる(少人数でやっているので電話が長引くと正直なところつらいのです)などの理由から、できるだけお問い合わせフォームからのご質問をお願いします。
概ね2営業日での回答メール送信を心がけています。
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