マネジメントブログ

時期の不確実性について、改めて。

遅くなりましたが、9月末の定時株主総会と株主報告会へのご参加に改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。
一同さらに気を引き締めて経営に当たっています。

その中でも中心的な業務が、投資家の皆さんにもご注目いただいている欧州臨床第3相試験の申請や準備です。
株主報告会での質疑も多くはこの点でした。
私たちがかねてから会社紹介プレゼンテーション資料などで「時期のリスク」「時期以外のリスク」に分けてご説明してきた方法で今回もお知らせしたのですが、その後のお問合せなどを拝読すると、上手くお伝えできていないように感じます。
私たちのような会社をご理解いただくうえで重要になる考え方なので、今回のブログでは、さまざまなところに散らばっている過去の当社公式情報を組み合わせて、この話題をまとめてお伝えします。

その前に

その前にまず、小さなことですが元気の出る情報です。
欧州臨床第3相試験の開始承認取得に備えて、臨床試験実施施設との契約事務を進めていて、これが思いのほか順調です。

一般に、臨床試験開始承認獲得から組入募集開始までの間には、各臨床試験実施施設との契約(すべての検査項目、処置、薬剤などの価格交渉を含むものです)を締結し、施設ごとの倫理委員会の承認を獲得し、薬剤供給(製造・製剤から廃棄処理の方法に至るまで細かい調整が必要です)を確立し、・・・という一連の業務が続き、その期間は一般に数ヶ月かかるとされています。

当社のこれまでの米国での臨床試験では、大急ぎでも4ヶ月から半年かかっていました。
米国では、臨床試験開始承認を取得してからでなければ契約の交渉すら始められない施設が大部分でした。
欧州では、その業務を臨床試験開始申請と並行して進められるので、次々に契約締結OKのお返事が舞い込んでいます。

今回の臨床試験計画欧州シフトに伴い、米国と欧州の臨床試験のしくみや方法のさまざまな違いを感じています。
その中には、私たちにとって時間や手間のかかるものもあるし、逆に時間や手間を少なくできて私たちにとってありがたいものもあります。
臨床試験実施施設契約については、私たちにとってありがたい違いがありました。

では、本題です。

時期の不確実性(1)やり取りの間隔

欧州規制当局に対する臨床第3相試験開始申請事務は、たくさんの申請の集合体です。
皆さんのご注目の集まりがちな「プロトコールの審査・決定」もそのうちのひとつですが、プロトコール以外にも、たとえば過去の基礎研究・非臨床試験に関するデータや、過去の臨床試験に関する情報、使用する薬剤の製造・製剤・流通に関するものなど、多岐にわたります。
そのひとつひとつのクリアのために、びっくりするほどたくさんの書類やデータを提出と説明をして、びっくりするほど時間がかかってしまうのが申請業務です。

そのひとつがPIP免除申請でした。
EMAから議事録が公表され当社公式Xからもご説明したので、ご存じのかたも多いと思います。
この中でも触れているように、
「小児の症例はほぼ無いから免除でいいですよね?」
「そうですね」
と数分で済むような印象を持たれるかもしれませんが、これだけでも膨大な説明資料と数ヶ月の期間を要しました。

こちらがクリアしたと思っていても、当局のだれかが気になった点があればいつでも質問や指摘が来るし、その予測はできません。
質問や指摘には必ずこちらからの回答が必要で、それに対する了承の返事や「これで質問や指摘はすべて終わりました」のしらせは特になく、追加の質問や指摘がいつ来るかわからない・・・その繰り返しが、申請業務です。
これまでにもそういう質問や指摘はいくつも発生していて、ひとつひとつ対応しています。
今後も、いつ何が出てくるかわかりません。
もちろん、出てこないという良いほうの不確実性もあります。

その良いほうの不確実性が顕在化したのが、先日公表したオーファンドラッグ申請でした。
この件でも大量の申請資料を提出して、これに対する質問や指摘への対応を繰り返し、また次の質問や指摘が来るのかと待ち構えている最中に、予告なくオーファンドラッグ「指定」の通知がありました。

このスピードの背景には、欧州学会でもご注目いただいたCBP501へのご期待もあったと思います。
それでも、もしあとほんの1つでも質問や指摘があったら、仮に私たちが完璧迅速に対応したとしても、会議日程などの関係でオーファンドラッグ指定は少なくとも数ヶ月先になっていたのです。

このように、最終的な「承認」の返事が届くまで、良いほうも悪いほうも、早いほうも遅いほうも、私たちにはわかりません。
投資家の皆さんには苛立ちやモヤモヤのもとになるだろうことはよくわかります。
私たち自身も感じていますから。
しかし、そういうものだとご理解いただくしかありません。

時期の不確実性(2)対応・回答にかかる時間

申請業務の中で日常的に多数生じる「当局からの質問や指摘」には、
◯時間さえかければ対応・回答できて、次へ進められるもの
◯時間をかけても対応・回答できないおそれのあるもの
の2とおりがあります。

私たちは、前者「時間さえかければ対応・回答できるもの」も「時期のリスク」の一種と捉え、皆さんにもそうお伝えしています。

冒頭に書いたとおり、申請業務で対応しなければならない範囲は多岐にわたります。
その上、そのひとつひとつがとても繊細なものばかりです。
ミスとも呼べないようなたったひとつの手違いでも、対応や回答には時間がかかってしまいます。

微細なミスすらも起きないよう可能な限りのリスク回避策は打っていますが、不可抗力を含めたすべての不確実性を完全に排除することはできません。
これも、ぜひご理解いただきたいと思っています。

「時期以外の不確実性・状況悪化」とは

当局からの質問や指摘のうち、後者
◯時間をかけても対応・回答できないおそれのあるもの
が飛んでくる可能性も、もちろん無いわけではありません。

これが来た場合には、時間では解決できないかもしれなくなります。
米国で突然「第2b相試験」という指示が飛んできたのもこれの一種でした。
規制当局対応以外のところでも、同様のことが起きる可能性はあります。
私たちは「時期以外の不確実性」とご説明しています。

これが起きた場合、
「本当に時間をかけても対応できないのか、何かの工夫で解決できないか」
と時間をかけてもがくべきか、あるいは、
「米国で承認を得て直前段階まで念のため進めておいた臨床第2b相試験に進むべきか」
など、臨床試験計画全体に及ぶ大規模な検討を始めねばなりません。

現在、欧州規制当局からそのような質問や指摘が飛んでくる兆候はありません。
もちろん、米国では突然予想もしない「第2b相試験指示」などという対応しようのないものが飛んできた経験もあるので今回も警戒は怠っていませんが、今のところ、仮に何かあったとしても対応できる範囲だろうと感じています。

時期の不確実性の影響範囲

株主報告会でこのような質疑がありました。

Q: もし2024年中に第3相試験が開始されなかったとしたら、2027年上市目標は消えるのか。
A: ご指摘のとおり、2024年中の第3相試験開始ができないおそれはあります。(〜中略〜)その場合に2027年承認・上市の目標がどうなるかについては、承認されるプロトコールや組入実現ペースなどにもよるので一概には言えません。

ここがよくわからない・何か誤魔化しているのではないかというお問合せをいくつかいただきました。
この点を改めてご説明します。

私たちは、2024年中に臨床第3相試験の開始承認を受け試験を開始する目標をお伝えしていて、それを実現できないおそれがあることもお伝えしています。
しかしこれは、2027年承認・上市のために必達の目標というわけではありません。
もともと、少し余裕を持った目標設定です。

臨床試験の期間に影響する主な要素は「プロトコールの内容」と「組入実現ペース」です。
今後開始承認される場合の「プロトコールの内容」は未だ決まっていませんが、めやすとして、米国で2b相試験として開始承認されたのとほぼ同じと想定してお話しします。
(※私たちが希望している欧州臨床第3相試験というわけではありません。)

組入実現ペースを左右する要素はたくさんありますが、その中で大きなものは、臨床試験実施施設数です。
前回の臨床第2相試験では、実施施設数20施設で、9ヶ月で36名の組入を完了しました。

今回の欧州第3相試験は、50近い施設数での実施を計画しています。
この施設数やペースを今回の臨床試験組入数想定150〜160名に当てはめると、中間解析の有無や期間にもよりますが、試験後に新薬承認までの期間を半年〜1年と見込んだとしても組入開始から2年半程度での承認・上市には十分に実現可能性があります。

なお、私たちはそれをさらに短縮できないかという工夫もしているところです。
前回米国第2相試験では、予定していた実施施設数20施設すべての開設は2022年5⽉になってしまい、施設数の力を発揮し始めたときにはもう終わっていました。
冒頭でお知らせしたように今回は臨床試験実施施設との契約が先行して次々に締結されていますから、実施施設開設の初期ペースも改善できそうで、これによる組入れペース向上も期待できます。

ただしもちろん、臨床試験開始承認からFPI(最初の患者登録)までの途上にある
「施設ごとの倫理委員会」
「薬剤供給確立」
「症例報告方法すり合わせ」
「組入募集」
など(ほかにもたくさんあります)一連の業務にも、それぞれ私たちのみでは回避しきれない「時期の不確実性」があることにご留意ください。
これらに状況の変化があればすみやかにお知らせします。

まとめとしては:
開始承認獲得の「時期の不確実性」の影響は、比較的小さいものです。
仮に2024年中の開始承認獲得・臨床試験開始の目標が達成できなかったとしても、それだけでただちに「2027年承認・上市」の目標が消えてしまうわけではありません。
2027年承認・上市の目標への影響は、開始承認される試験の内容や、実際の試験開始(FPI)時期の不確実性のほうが遥かに大きいです。

株主報告会での

2024年中の第3相試験開始ができないおそれはあるが、その場合に2027年承認・上市の目標がどうなるかについては、承認されるプロトコールや組入実現ペースなどにもよるので一概には言えない。状況の変化があれば随時、情報を開示していく

というお答えは、こういう背景に基づいています。

ご説明のおわりにお伝えしたいこと

私たちの「がんを治したい」という単純な目標を達成するために、小さなチームですが、外部の大勢のかたがたの応援をいただきながら、ここまで進めてきました。
当初は科学・医学に関わるさまざまな紆余曲折に時間を使い、現在は、主に規制当局・事業環境のさまざまなハードルや不確実性をクリアするために時間を使っています。

この間、多くの皆さんと同じように、私自身もとても多くの友人・知人をがんで亡くしてきました。
また、現在もステージ4のがんと闘いながら1日も早く援軍が来るのを待っておられる多くのかたがたがいることを知っています。

常に、今よりも良い方法がないか、チーム一人一人が、そしてチーム全体としても、外部専門家の知識や情報も得つつ考え、とにかく前に前に、の毎日です。

インターネットで世界の人々の意見が隅々まで飛び交う現代、悪意ある誤った情報や誹謗中傷も溢れている一方で、誰かが持っている知識や気づきが間違いに気づかせてくれたり新しい道を示してくれることもあると考えて、発信を続けています。
今後とも、叱咤激励をお願いします。