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CBP501臨床第2相試験のデザイン

CBP501臨床第2相試験で採用している「フレミングの2ステージデザイン」(Fleming’s Two-Stage design)について、改めてご説明します。
このデザインの特徴をすべてご説明するのは大変ですが、今回のCBP501第2相試験を正しくご理解いただくために必要な情報に絞り、難しい専門用語をできるだけ使わずにご説明していきます。
少し長くなりますがぜひお付き合いください。

古典的(一般的)な臨床試験への問題意識

古典的な臨床第2相・第3相試験のデザインでは、その試験に適した評価項目を設定し、複数の群の間に評価項目数値の有意差(統計的に意味のある、偶然でない差)を検出します。
そのためには、この差を検出するために必要な、比較的多数の症例が必要になります。
そして、設定されたすべての群に目標症例数が組入れられるまで試験が継続されます。

しかしこの方法にはいくつかの問題点があります。

効果のない試験はできるだけ早く新規登録や投与を中止しないと、患者様に不利益を与えます。
また逆に、事前の期待以上の効果があると考えられる試験は、早く次のステップへ進めて市場に新薬の出るタイミングを少しでも早めるべきです。

こういった問題意識から、
あらかじめ定めた基準で、途中の結果に応じてその後の試験シナリオを分岐できる
という特徴を持った「アダプティブデザイン」がしばらく前から注目されています。

2019年にはFDAから、アダプティブデザインに関する企業向けガイダンス「Adaptive Design Clinical Trials for Drugs and Biologics Guidance for Industry」の最終版が公表されました。(日本製薬工業協会による邦訳 2021年)

「多段階デザイン」と呼ばれる多様なアダプティブデザインが提唱され、最近ではCovid-19治療薬の臨床試験でも使われています。
フレミングの2ステージデザインは、その中のひとつです。

古典的臨床試験との違い

古典的な臨床第2相試験のデザインと大きく異なる点は、

  • 「群と群の間で比較して有意差の有無で判断」というしくみではなく、
  • 「どの群が初期の仮説どおりで第3相試験に進めるべきかを個別に判断」というしくみである

ということです。
ここはとても重要なポイントなので、ぜひしっかりとご理解ください。

2ステージデザイン

最初に少数例のステージ1があり、終了後に中間解析を実施します。

ステージ1の少数例で仮説が肯定され、つまり、偶然ではないだろうと判定された場合には、その投与群は早期有効中止。
今回の試験では、9例中4例以上の3M-PFSがあれば、早期有効中止です。
逆に、仮説が否定された場合には、その投与群は早期無効中止となります。
今回の試験では、9例中1例以下が早期無効中止です。

それらのどちらでもないケース(今回の試験では9例中2〜3例)のみ、ステージ2に進めて検証を続けます。

ステージ2は、必要な群のみ実施します。
必要と確定した場合には、他の群のステージ1が終了する前に始めることもあります。

この試験では、ステージ2で組入れる被験者数は1群あたり14名。
ステージ2に進んだ場合には、ステージ1の9例を含めた23例が評価の対象になります。
23例中6例以上が有効であれば第3相試験に進み、5例以下であればその群は第2相で終了です。

ステージ1のハードル設定

ステージ1で早期有効中止と判定するためのハードルは、統計的な計算に基づいて設定されます。
たとえばこちらに、自動計算プログラムが公開されています。
詳しいご説明は省きますが、このプログラムの入力欄に条件となる数値を入力することで、試験デザインに必要な数値が自動的に算出されます。

ちなみに、今回の臨床第2相試験の具体的な想定は次のとおりです。

  • ヒストリカル(過去の多数の臨床試験報告からの推定値)・・・無増悪生存期間3ヶ月(3M-PFS)10%
  • ヒストリカルと比べて意味のある効果・・・3M-PFS概ね30%以上
  • 3剤併用の持つ真の作用・・・過去のCBP501臨床試験実績から、3M−PFSは35%と仮定

さきほどの自動計算プログラムにこれらの数値を入力して算出された結果が、今回の「ステージ1が9例・ステージ2が14例・合計各群23症例」の試験デザインです。
試しに、プログラムの入力欄に 0.025 ・ 0.8 ・ 0.1 ・ 0.35 と入力してみてください。
いくつか表示される計算結果の中にこのデザインがあります。

既にお気付きのとおり、今回の試験のステージ1のハードル「9例中4例以上の3M−PFS」を比率でいうと44%で、仮説の想定よりも高いハードルになっています。
ステージ1では少数例で判断するので、早期中止には高めのハードルが設定されるわけです。

ご留意いただきたい点

以上ご説明したのが基本的なしくみですが、よく誤解されがちな点やご留意いただきたい点がいくつかあります。

まず、

「ステージ1で4例以上の3M-PFSで早期有効中止」と「ステージ2までの合計23名中6例以上の3M-PFS」との間には、統計上の意味の違いがない

という点です。

この試験デザインは「その投与群を第3相試験に進める」「進めない」の2択を決めるための試験です。
「早期有効中止」「早期無効中止」は、たまたまそれが早期に判定できたということに過ぎません。

CBP501臨床第2相試験についてこれまで使ってきたたとえ話で言うと、「金メダル(3剤併用投与群がステージ1早期有効中止となり、ステージ2をスキップ)で第2相を通過」か「銀メダル」か「銅メダル」かによる第3相試験の成功確率の違いはありません。
メダルの色は、今後上市に至るまで開発を進める場合に必要となる時間やコストの違いだけです。

もうひとつのご留意点は、

3M-PFSという指標は、あくまでも「その投与群がこの臨床第2相試験を通過できるか否か」を決めるために設定している、いわば代理指標である

という点です。

医薬品として承認申請するために実施する最終試験である第3相試験では、全生存期間(OS)などが評価されます。
したがって、ステージ1やステージ2の結果の中に、OSその他で有効性を示唆する注目すべき所見があった場合や、安全性に懸念があった場合などには、3M-PFSの数にかかわらず、基本的なしくみとは異なる「進める」「進めない」の判断がなされる可能性があります。

このデザインの特徴と情報開示

冒頭にも書いたとおり、早期有効中止・早期無効中止を設定する最大の利点は、被験者の保護です。
効く・効かないを統計的に確認できた後までその投与群への被験者登録や投与を続けないのは、倫理的にとても大切なことです。
また、そうすることで派生的に、試験期間の短縮や臨床開発費の節約にもつながります。
つまり、当社のような創薬企業には特にマッチした試験デザインであると言えます。

さらに、今回はオープンラベル試験であることも相まって、途中で劇的な効果が観察された場合に、限定的な内容とはいえ早期にご報告できることも特徴です。
もちろん医療倫理には十分に配慮しなければならず、こういった情報に触れる機会の少ない投資家の皆様の判断を混乱させてはいけませんが。
この試験の途中経過に関してキャンバスが実施している情報開示と投資家リレーションは、この特徴を活かしたものです。
今後も、できるかぎりの情報を公表し、投資家の皆様の投資判断の材料をご提供していきます。

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