マネジメントブログ

Stemline社によるCBS9106臨床開発は今後も力強く継続されます

CBS9106と同じXPO1阻害剤であるKaryopharm社のNEXPOVIO (selinexor)の欧州・ラテンアメリカ等における販売権を、イタリアの製薬企業Menarini社が取得した旨が公表されました

ご存じのとおりMenarini社は、キャンバスがCBS9106で提携しているStemline社の親会社です。

このニュースで、
「これでキャンバス由来のfelezonexorは見捨てられるのか?」
と早とちりする方もおられると思います。

確かに、創薬・製薬業界では、薬剤候補を導出した先の意思決定(者)が変わって開発方針が変更になり、それまで順調と思われた提携が突然停止になることが少なからず起きます。

・・が、このニュースは実は、私たちにとってとても良いニュースなのです。

提携先経営陣が魅力を理解していることの価値は大きい

CBS9106を導入したStemline社の経営陣は、もちろん、それを有望と思っているから導入しました。
また、開発を進める中でその考えが変わらなかったからこそ、Stemline社は途中で日本・中国・台湾・韓国の権利も追加し、全世界の権利を獲得しました。

そのStemline社を買収したMenalini社は、Stemline社のどこに魅力を感じて買収したのか。

私たちはこれまで、Menarini社によるStemline社買収にあたって、
「Menarini社は、当時Stemline社が開発・上市に成功していたElzonrisだけでなく、開発中のfelezonexorのXPO1阻害という作用メカニズムに魅力を感じている」
「felezonexorはそのXPO1領域の次世代化合物候補であり、その特徴から『ベスト・イン・クラス』になり得ると期待している」
と聞いていました。

実際に、定期的に行っているStemline社とキャンバス共同の開発会議でも、Stemline社がCBS9106の臨床開発を積極的に進めている様子だけでなく、親会社Menariniグループがそれを前向きに支えている様子も、よく見えています。

今回のNEXPOVIO販売権獲得は、Menarini社やStemline社の経営陣が本当にXPO1阻害という作用メカニズムに魅力を感じ続けている証左です。

冒頭に書いた
「開発方針が変更になり、それまで順調と思われた提携が突然停止」
のような話が臨床試験失敗以外の場面で発生するのは、たいてい、提携先が作用メカニズムや化合物に魅力を感じなくなり興味を失ったときです。

今後永遠にそれがないとはもちろん言い切れませんが、現時点でそのおそれがないとわかったことは、私たちと私たちのステークホルダーの皆さんにとって非常に大きな価値があります。

XPO1阻害について(おさらい)

XPO1は、細胞核の中の物質を核外に輸送する働きをする蛋白質です。

がん細胞にとって、がん抑制因子や細胞周期阻害因子などが細胞核内にあるのは都合が悪い状態です。
そこでがん細胞は、XPO1を働かせ、都合の悪いさまざまな物質を核外へ運び出しています。
XPO1阻害とは、この働きを阻害することによってがん細胞にダメージを与え、細胞周期停止やアポトーシス誘導によってがん細胞を殺傷する作用メカニズムです。

こうした作用メカニズムから、XPO1は1990年代には既に抗がん剤の標的として有望と考えられ、盛んに研究されていました。
天然物であるレプトマイシンBが強力にXPO1を阻害することが知られており、臨床試験まで行われました。
しかし、副作用が強く開発は断念されました。

その後しばらくの間、欧米大手製薬会社などが、多数の類縁体を合成するなどして副作用の少ないXPO1阻害剤を作り出そうとしていましたが、どれも成功していませんでした。

つまりXPO1阻害は、1990年代以降ずっと、
「XPO1阻害は良いけれど、強い副作用が問題」
とされ続けていたのです。

そんな中、2019年、KaryopharmaがついにXPO1阻害剤として最初の抗がん剤selinexorの上市に成功しました。
これが「ファースト・イン・クラス」。

私たちの導出したfelezonexorの特徴は、XPO1蛋白質を分解に導く作用です。
この作用は、レプトマイシンBにはなく、selinexorには少しあることがわかっています。

XPO1は正常な細胞にも必要な蛋白質なので、阻害したままだと不都合が生じてしまいます。
XPO1が分解されると、細胞はその後に新しくXPO1を作ることができ、これがXPO1阻害から来る副作用軽減に大きく貢献すると考えられます。
だから、felezonexorは、ベスト・イン・クラスの候補なのです。
ほぼ完了している臨床第1相試験のデータが、その魅力の片鱗を示しています。

ファースト・イン・クラスからベスト・イン・クラスへの開発競争

特定の分子を標的にした薬剤(分子標的薬)は、ファースト・イン・クラスの薬剤が大きな市場を獲得してみせると、必ず、次世代のベスト・イン・クラスをめぐる熾烈な競争が起きます。
標的となる分子が薬になることはもうわかっているので、開発リスクが少なく、予算規模が大きく多数の医化学者を擁する大手製薬企業にとって大きな投資がしやすいからです。
そして、最終的に最も大きな利益を得るのは、多くの場合、ベスト・イン・クラスです。

ところがXPO1の場合、今のところ大手製薬企業にその動きは(少なくとも、臨床開発段階には)ありません。
また、大手製薬会社ですら、すでにレプトマイシンBの改良版作成に失敗しているように、今後のベスト・イン・クラスの創出は一筋縄ではいきません。

だからこそ、既に臨床開発段階に進んでいる私たちのCBS9106(felezonexor)は、ファースト・イン・クラスとなったselinexorの存在下でも、いや、むしろ存在下だからこそ、今後のベスト・イン・クラス開発競争において魅力的な化合物なのです。

今後もCBS9106開発は力強く継続

KaryoPharm社公表資料の末尾 “About Menarini Group” には、

Menarini actively develops Elzonris (marketed in US and Europe for BPDCN) for multiple hematologic malignancies, including AML, CMML and myelofibrosis, and elacestrant and felezonexor for oncology as well.”
Menarini社は、AML・CMML・骨髄線維症などの複数の血液がんを対象としたElzonris(米国と欧州でBPDCNとして販売)のほか、elacestrantおよびfelezonexorをがん領域で積極的に開発しています。

という記載があります。
このfelezonexorが、次世代XPO1阻害剤CBS9106 です。
このリリースにこの記載が含まれることが、Menarini社の方針の現れです。

今回のNEXPOVIO販売権獲得によってMenariniグループは、XPO1阻害剤の領域で最も有力なプレイヤーのひとつとなりました。
私たちのCBS9106は、そのプレイヤーの持つ最大の武器となったわけです。

XPO1阻害に関して深い関心と理解のあるMenariniグループが、潤沢な資金を使ってCBS9106(felezonexor)の臨床開発を進め、XPO1阻害剤のベスト・イン・クラスとしてその最大価値を取りに行く。
今回のニュースは、このシナリオの一歩として、とても重要な意味を持っています。

CBS9106開発の現状

CBS9106臨床第1相試験は、なかなか副作用が出ないことで長期化しましたが(これはお薬としては良いことなのですが)、いよいよ最終盤を迎えています。

データ収集終了は2021年12月頃の見通しと公表されており、次の第2相試験の対象疾患や設計等の検討も始まっています。

キャンバスは今後も、定期的に開催される開発共同会議などを通じて、Stemline社による臨床試験の力強い進行をサポートしていきます。