6月2日から6日まで、今年もASCO(米国臨床癌学会。世界最大の癌の学会です)に参加しました。
今年も、どの講演会場もポスター会場も、世界中から集まったとても大勢の医療関係者たちの熱気に包まれていました。
(大統領が変わってから色々ありますが、アメリカやっぱりすごい。)
✽ ✽ ✽
今年も、話題の中心は免疫系抗癌剤です。
2010年前後から、先行欧米大手2社が競って2種類の免疫チェックポイント抗体(抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体)について次々と市販承認や適応拡大承認を獲得。
その後、さらなる適応拡大の承認を得るための臨床第2・3相試験結果が報告されてきました。
いま、その競争は、3種類の免疫チェックポイント抗体(前記プラス抗PD-L1抗体)について大手4社プラス多数の製薬会社・ベンチャー企業の競争に拡大しています。
何度もお話していますが、免疫チェックポイント抗体の魅力は、パラダイムシフトと呼べるほど長期にわたる効果。
悪性黒色腫・非ホジキンリンパ腫・DNA修復異常のある癌以外では、効果のある肺癌・頭頸部癌・尿路癌などで約2割の患者さんが長期効果の恩恵を受けます。
しかし言い換えれば、8割の患者さんにとっては目新しい事はなく、また、膵臓癌など全く効果が期待できない癌もたくさんあります。
そこで、癌克服を目指している者にとってここ数年の話題・目標は、如何にしてこれら3種類の免疫チェックポイント抗体単独では効果が望めない患者さんに効果をもたらすかです。
今のところ、全く新しい免疫療法が劇的に効果を示す可能性は少なく、今ある3種類の免疫チェックポイント抗体に「何を組み合わせるか」の優先度が高い。
既存の3抗癌剤と別の何かの組み合わせは、欧米では既に800以上もの臨床試験が行われており、その中から優勝劣敗が見え始めてきたのが現在です。
一部の分子標的薬は、免疫系抗癌剤との組み合わせに向かない(組み合わせるとむしろ悪くなる)ことが判明しました。
一方で、(すでにここでは何度もお話していますが、)一番効果が高いのは従来型の抗癌剤との併用です。
先日のキイトルーダ+化学療法剤2剤併用FDA承認の話に加え、今回の学会でも、すでにとても多くの従来型抗癌剤や放射線療法+免疫チェックポイント抗体が、効果の最終証明のための臨床第3相試験を始めていると報告されていました。
この流れの中でキャンバスが勝負をするのが、4月にFDAから許可がおりた、CBP501、シスプラチン、ニボルマブ(オプジーボ)の3剤併用臨床試験です。
(既にClinicalTrials.govにはこのフェーズ1b試験の内容が公表されています。)
✽ ✽ ✽
CTLA-4・PD-1・PD-L1の3つに続く免疫系抗癌剤候補の新規作用機序のなかで第3相試験に進んでいて目立っていたのは、IDO阻害剤です。
これもキャンバスのパイプラインと大いに関係があります。
キャンバスは、静岡ファルマバレープロジェクトとの共同研究でIDO/TDOの同時阻害剤開発を目指しています。
もともと世の中の流れに無頓着で、自らが正しいと思う道を進んできたキャンバスですが、私たちが進んでいる方向が現在の抗癌剤開発の方向と完全に一致していることが、今回あらためて確認できました。
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もうひとつ、SL-801(CBS9106)についても嬉しい出来事がありました。
まず、キャンバスが生みだし日・中・台・韓以外の権利を導出した先であるStemline社がASCOでブースを出しており、そこで、SL-801のきれいなディスプレイがなされていたことです。
しかも嬉しいことに、彼らが以前から持っていたSL-701より上位にディスプレイされていました。
(ピンぼけ・手ぶれでごめんなさい)
日本の片隅で私たちの生み出した抗癌剤の種が、世界最大の癌の学会のブースで展示されている。私が高校生の時に目指したものが40年かかってようやく手が届くかもしれないところまで来た、という感じです。
SL-801に関してもうひとつ、多発性骨髄腫について。
古い友人がこの病気になったことがきっかけで調べた結果、多発性骨髄腫の細胞株や動物モデルにとても効果が高いことが判明し、SL-801の有力な標的のひとつになっている(まだこの臨床試験は始まっていませんが)のですが、ASCO期間中に行われた多発性骨髄腫の医師向けセミナーで
「たくさんの新薬が開発されてきたが、未だに治癒できるものはなく、まだまだ新薬が必要だ。現在もっとも期待が持てる標的はBcl2とXPO1だ」
とキーオピニオンリーダーが講演で話していました。
XPO1に効くと考えられる臨床試験段階の候補薬剤は、Karyopharmの薬剤候補とSL-801だけです。
残念ながら私の友人には間に合いませんでしたが、今も「一日も早く」と思っています。
因みにBcl2は、私の留学先の今は亡きボスの研究テーマでした。
今回ここで語られたBcl2に効く薬は、このボスたちのチームが生み出した抗癌剤です。
昨秋の癌免疫の学会で、懐かしい当時の同僚とたまたま再会してその話(約20年かかって薬になった)をしたところでした。
ボスは肺癌で亡くなりました。
CBP501の有力な対象疾患候補は肺癌です。
こちらも間に合いませんでした。
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皆さんから見れば「キャンバスはいつまでゆっくりやっているんだ」でしょうが、これでも毎日、「一日も早く」と思いながらやっているのです。
40年経ってしまった今も。
今は、霧のかなたで形も見えなかった目標が目の前に現れたと思っています。
あと少し、一日も早く・・・
シカゴの空港にて
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