今日公表したAACR(米国癌研究会議)でのポスター発表は、見慣れない内容で驚いた方も多いことでしょう。
実は、これまで表に出る機会がなかったのですが、キャンバスの基礎研究チームにはコンピュータや統計を使った「計算生物学(Computational Biology)」の領域をカバーするコンピュータサイエンティストもいるのです。
今回の発表は、癌の領域で知りたいことをぶつけているうちに彼が勝手に独自の計算方法を編み出し、それによって化学療法や免疫チェックポイント抗体に反応する人をあらかじめ選び出せるかもしれない知見が見つかったという、とてもワクワクする内容です。
ご存じのとおりほとんどの抗癌剤は、効果を実感できる人よりも、効果なく副作用のみに苦しんだり、何の効果もないのに高額な薬剤費を負担したりする患者さんの数のほうが多いです。
ですから、あらかじめ効果が期待できるかどうかを予測することは、新薬を開発するのと同等かそれ以上の価値があります。
とはいえ、一般的に感受性テスト法を開発したときの利益の期待値は新薬を開発した際に得られる利益の大きさと比べてずいぶん低いこともあり、新薬開発に比べるとその研究開発の層は薄いのが現実ですが。
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ところで、分子生物学・細胞生物学や実験動物を専門領域とする研究者が主体のキャンバスの基礎研究チームの中に、なぜコンピュータサイエンティストがいるのでしょう。
その由来は約10年前に遡ります。
キャンバスは、日本電気株式会社と共同研究契約を締結していた時期があり、同社の研究者を受け入れ、機械学習によってキャンバスの低分子化合物やペプチドの最適化作業を効率化出来るかどうか検討を行い、その良好な検討結果を受けて機械学習ソフトウェアを技術導入しました。
そして、検討期間を終え同社の研究者が帰っていった後、その機械学習ソフトウェアを有効活用するために、高度なコンピュータプログラムや操作に詳しい人間を探しました。
その時、2003年頃にCBP501と細胞周期チェックポイント蛋白の結合モデルをコンピュータ解析してくれていた米国在住の米国人Jonathanにたどり着きました。
彼は、マサチューセッツ工科大学(MIT)、ハーバード大学大学院修了という経歴の持ち主。
大学では有機化学を学んだ、まさに計算生物学にうってつけの人物です。
彼がヒューストン大学で助教をしていたところ、その技術に惚れ込んだ日本の商社が引き抜いてニューヨークにベンチャー会社を設立し、彼を同社のCTO(最高技術責任者)にしていました。
その商社の方からの情報でまさかとは思いつつも会って「日本に来ないか」と誘ったところ、二つ返事で快諾してくれて、日本に来てもう10年になります。
その後、その機械学習ソフトウェアを使用する機会はなくなってしまったのですが、彼自身の希望もありキャンバスも望んだことから、コンピュータサイエンティストとして残ってもらいました。
彼の存在はとても貴重で、キャンバスの薬剤開発・研究や臨床開発に広がりをもたらしています。
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もともと私は、世界中のさまざまな専門家が自由に意見を交換すれば、癌なんかすぐにでも治せるんじゃないかと思っていました。
しかし実際には、どんな科学論文をいくつ発表したかで評価されて、それを頼りに出世しなければ研究を続けられない環境の中、狭い専門分野の隣の研究室でも、あるいは一つの研究室の中ですら本当に自由な意見交換が難しい場合も少なくありません。
ましてや別組織や専門分野が異なっていたりすると、意見交換や実質的相談はとても難しく、そもそも毎日のように相談するなんてあり得ません。
そんな中、この研究者をキャンバスに迎え入れられたことは、非常に幸運でした。
毎日のように、何でも思いついたらその場で質問もできるし、ディスカッションもできる。
高校生レベルからとても高度なレベルに至る化学の話はもちろんのこと、仕事上の英語に関する質問や突拍子もないアイディアに関しても気軽に訊くことができます。
癌治療薬開発に関しても、分子生物学者だけでは思いつかないような方向のアイディアも生まれるし、お互いの基礎知識の違いがとても刺激的で、何か新しいものが生まれそうなディスカッションが、いつでも思いついた時にできます。
そんな恵まれた環境で生まれたのが、CBP-A08をはじめとする次世代のCBPシリーズや後続パイプラインであり、今回の発表内容です。
この知見を、キャンバスのさらなる価値向上につないでいきたいものです。
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なお、公表資料にも記載しているとおり、AACRでは、本件のような基礎的な研究発表の抄録送付締め切りが、臨床試験の抄録締め切りの約1ヶ月前に設定されています。
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