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CBP501フェーズ1b試験の初期感触と背景

2月に行われたアナリスト向け第2四半期決算説明会の質疑応答の中で、現在進めているCBP501の臨床試験第Ib相(フェーズ1b試験)について、最初の3名の患者さんのうち少なくとも複数の方の経過が良いということをお話ししました。
この回答は、この領域のプロであるアナリストの方々やマスメディアの方々に対する回答だったので、背景説明が少なく一般の方々にはわかりにくい部分もあると思います。
そこで、このブログで改めて、
「この回答が何を意味しているのか」
あるいは
「何を意味していないのか」
がもう少しわかりやすいように、背景や周辺情報などを少しお話ししたいと思います。
臨床試験についてご存知の方には、すでにお話しした繰り返しが多く冗長に感じるかと思いますが、お許しください。

今回のフェーズ1b試験は、キャンバスのCBP501と従来型抗癌剤であるシスプラチン、そして近年脚光を浴びている免疫チェックポイント阻害抗体であるオプジーボの、3剤併用試験です。

私たちは、これまで発表した科学論文において、CBP501が

「シスプラチンの癌細胞内濃度を高めて癌細胞を(免疫反応が起きやすいと考えられる)免疫原性細胞死に導く」とともに、

「癌局所で免疫抑制をしており、シスプラチンによってその免疫抑制や癌幹細胞を増やす作用がさらに増強(悪化)してしまうと考えられているマクロファージの作用を抑制する」

・・・と主張しています。

そして、これらの作用によって免疫チェックポイント阻害抗体がより働きやすくなると考えて、細胞レベルからマウスの実験まで、私たちの作業仮説が正しいと思われることを実験的に示した論文を発表しています。
また、これまで行われたCBP501の臨床試験結果から、CBP501とシスプラチンの併用投与の安全性と白血球数が正常の患者さんへの有効性について、私たち自身はある程度の確信を持っています。
そこで、先に述べた3剤併用の臨床試験を開始しました。

いくら動物で3剤併用の安全性と有効性が確認されていても、また、他の数多くの臨床試験で「CBP501+シスプラチン」の2剤や「オプジーボ+シスプラチン+もう1剤の従来型抗癌剤」の安全性や有効性が示されていたとしても、私たちが計画した「CBP501+シスプラチン+オプジーボ」の3剤の組み合わせがヒトで安全とは限らないし、ましてや、有効とは限りません。
ですから、いきなりヒトに通常投与量の3剤併用をすることは許されません。

まず、オプジーボは通常投与量、シスプラチンは通常よりも2割減、CBP501は通常よりも4割減の投与量で、3名の患者さん(このグループを「コホート」といいます)に投与します。
そして、危険な副作用がないことを確認したのち、臨床試験施設の医師とCROの医師、そしてキャンバスが一堂に会した会議で、次の投与量に進んで良いかどうかの判定を行います。
進んで良いと判定されれば、次はCBP501は4割減のまま、シスプラチンとオプジーボは通常投与量にして3名の患者さんに投与し、また判定会議。
これらを無事に終えて、つい先日、3つめの投与量の患者さん募集が開始になりました。このコホートは、CBP501とオプジーボが通常量、シスプラチンが2割減です。
当初のコホートの患者さんへの投与量は少なめですが、血中濃度やこれまでの臨床試験結果から、効果があってもおかしくない投与量だと思っています。

多くの場合、抗癌剤の臨床第1相試験では、既に複数の(標準)療法に癌が反応しなくなって、他に効果が期待できる治療法がない患者さんが参加されます。
10年ぐらい前に、私たちの科学顧問であるVon Hoff先生は
「全ての癌の臨床第1相試験の投与サイクル数の中央値は2だ」
とおっしゃっていました。
2サイクルというと、多くの場合42日か56日。
2サイクル目の最後にCT検査をすることが多いので、そこで癌が進行していることがわかってしまう・・・ということです。
逆に言えば、第1相試験で投与サイクル数が2を上回れば、それは「感触が良い」ということになります。

これまでは、ほとんどの抗癌剤の臨床試験で律速となるのは、患者さんの登録でした。
そして、ほぼ全ての臨床試験は予定より遅れると言われていました。
しかしここ数年、免疫チェックポイント阻害抗体の成功により臨床試験の環境は劇的に変わりました。
米国では、患者さんが自分にあった臨床試験を求めて積極的に集まるようになっています。
これまで、臨床試験の盛んな米国ですら、試験に参加するのが適当と思われる患者さんのうち実際に参加していたのは4%程度だと言われていましたから、もともと伸びしろがあったのも事実ですが、免疫チェックポイント阻害抗体を使った臨床試験では予定より早く患者登録が終了するケースが続出しています。

一方で、昨年6月の米国臨床癌学会でのDr. Hamidの講演によれば、免疫系抗癌剤の臨床試験は、その時点で3,000以上も行われていたそうです。
ですから当然、人気のある臨床試験には患者さんが集まりますが、目立たないもの、あるいは、初期の感触が良くないものや臨床試験施設によっては、相変わらず患者登録が律速になってしまいます。

そういうわけで、たくさんの競合臨床試験がある中、そもそも臨床試験施設の医師から見て科学的に魅力的な試験かどうかが第一に重要なポイントとなりますし、第二に、実際に投与した患者さんの感触がその後の患者登録のペースに大きく影響します。
特に、欧米のメガファーマがたくさんの臨床試験を行っている中、日本の聞いたこともない小さな会社(キャンバスのこと)がスポンサーの試験ならなおさらです。
夢のような効果のある抗癌剤候補であれば良いのですが、今話題の免疫チェックポイント阻害抗体ですら、多くの癌では2割以下の患者さんしか初期に効果は実感できません。
しかも現在は、この免疫チェックポイント阻害抗体が効かないと思われる患者さんが臨床第1相試験に参加されるので、確率から考えると、初期には良い感触が得られない場合の方が多いことになります。

ですから、CBP501が初期の複数の患者さんで感触が良いというのは、とても恵まれた状況なのです。

だからと言って、CBP501を含んだこの組み合わせが良いという証明には、全くなりません。
一度のじゃんけんで勝つ確率が3分の1であることは明確なのに、偶然で10回続けて勝つことがあるのは、多くの方が経験的にご存知だと思います。

ただ、患者さんの登録ペースに関して良い影響があるのは間違いありません。
実際に、臨床試験実施施設の医師から、この先の試験について一緒に考えたいと、とても前向きなお話を既にいただいています。
もちろん、この後うまく効果が続かなくて熱が冷めてしまうことも十分に考えられますが、少なくとも良いスタートを切れたことは確かな事実です。

✽ ✽ ✽

さて、昨日公表したとおり、キャンバスはファルマバレープロジェクト(一般財団法人ふじのくに医療城下町推進機構)との共同研究契約2件をいずれも契約期間を2年延長することになりました。
ひとつはファルマバレープロジェクトが保有している化合物ライブラリーを使った新規化合物探索創出、もうひとつは静岡県立大がプロトタイプを作成済のIDO/TDO阻害剤の最適化です。

特に後者(IDO/TDO阻害剤)は、世界的にも免疫系抗癌剤のターゲットとして有望と目されている領域です。
しっかりと研究を進めていきたいと思っています。