前回の続編です。
前回は『適応疾患・膵臓がん』という切り口でしたが、今回はこのニュースをきっかけとして『併用の組み合わせ』という切り口から、私たちのCBP501臨床試験がどのへんの位置にいるのかをお伝えします。
米国癌学会(ASCO)の会員向けに配信されているメールマガジンに、今日はこんなニュース記事がありました。
Addition of Avelumab to Chemotherapy in Previously Untreated Patients With Advanced Epithelial Ovarian Cancer: JAVELIN Ovarian 100 Trial
訳:未治療の進行上皮性卵巣がん化学療法に免疫チェックポイント抗体アベルマブを追加する:ジャベリン卵巣がん100試験(この臨床試験に付けられた名前)
進行してしまって手術が適応にならない卵巣がんの標準治療は化学療法、つまり、従来から用いられている細胞障害性抗がん剤の投与です。
※場合によっては血管新生阻害作用のある分子標的薬を上乗せされる場合があります。また、話が複雑になりすぎるためここではPARP阻害剤は除きます。
この記事にあるジャベリン卵巣がん100試験は、被験者を
(1)化学療法だけ
(2)化学療法+アベルマブ
の2つのグループに分け、治療効果を無増悪生存期間(がんの進行が抑えられている期間)の長さで比べた臨床第3相試験です。
今日のニュースは、この最終試験の結果が、モンク医師(Bradley J. Monk, MD)らにより、臨床医学の世界では有名なランセットオンコロジーに報告されたというものです。
結果は残念なことに「失敗」でした。
中間解析の段階で、これ以上試験を続行しても効果を期待できないと判断されたものです。
※同様に、別のPD-L1抗体であるアテゾリズマブも、1,301人もの患者さんを登録したイマジン050試験で失敗しています。
アベルマブは、本庶佑先生のノーベル賞受賞で有名なオプジーボと同様の作用をする抗体薬です。
オプジーボはPD-1に結合する抗体、アベルマブはPD-1の対になるPD-L1に結合する抗体。
臨床的には、ほぼ同様の効果が期待される免疫チェックポイント抗体の仲間です。
もともと免疫チェックポイント抗体がほぼ効かない膵臓がんなどはもちろんのこと、免疫チェックポイント抗体が効きやすいとされる肺がんでも、70〜80%の患者さんは、免疫チェックポイント抗体だけでは十分な効果は見られず、もう一段の工夫が必要です。
この工夫として数千もの併用臨床試験が行われている中で、今のところ最も幅広く効果の片鱗を見せているのが、化学療法です。
実際に、肺がんなど複数の種類のがんで、免疫チェックポイント抗体と化学療法の併用療法が米国FDAに承認されています。
2010年前後、免疫チェックポイント抗体と化学療法の組み合わせは、理論的には「ダメだろう」の声が大きく、「良いかも」の声は小さくてほとんど聞こえて来ませんでした。
「ダメだろう」の人たちの意見はこうでした。
化学療法剤の主な副作用のひとつは、造血系障害、つまり、免疫細胞も殺すことだから、免疫細胞のブレーキを外して免疫細胞に頑張ってもらう免疫チェックポイント抗体との組み合わせはナンセンスだ。
キャンバスが提携先獲得のために多くの製薬会社の事業開発の人たちと話をしている中でも、当時はこのような考えのもと、化学療法剤のひとつであるシスプラチンとCBP501の併用について、話を聴こうともしてくれないのを数え切れないほど経験しました。
一方で、当時でも、基礎研究者の中には「良いかも」と言っている人は存在していました。
化学療法剤は、上手に使うと、がん細胞が免疫細胞に攻撃されやすくしたり、免疫を抑制している免疫細胞をより強く抑えて、がんに対する免疫力を強めることができることが、既に数多くの論文で(非臨床の)実験的に示されていたからです。
免疫チェックポイント抗体が世に出てから、ありとあらゆる新旧抗がん療法との組み合わせの臨床試験が行われました。
その投与パターンの中には、化学療法との組み合わせも含まれていました。
しかし、当時の位置づけは、
「別の自社新薬との組み合わせの臨床試験の際に対照群として必要なので仕方なく作った投与群」
という扱いでした。
ですが、期待の新薬よりも、古い化学療法剤との併用の方が良い結果を出してしまった・・という事がたびたび起きました。
そこで今は、化学療法剤との併用も「意外に良いじゃないか」ということで、たくさんの臨床第3相試験が試みられています。
その中には、肺がんのようにうまくいった(当局の承認を得た)ものもあれば、この卵巣癌のようにうまく行かないものもあります。
今日のニュースは、その中の失敗例です。
私は、免疫系への悪影響が強い最大耐用量(患者さんが副作用に耐えられる限界)に近い投与量の標準化学療法は、免疫系抗がん剤との併用には最適ではなくて、この手の併用のためには、最適な抗がん剤の種類・量を選択する必要があると思っています。
しかし、その最適な抗がん剤の種類・量を見つけるのはとても大変です。
また、そもそも化学療法剤の量を減らすことには、化学療法剤に期待される直接の効果が悪くなるので、臨床現場の医師からの抵抗があります。
そこで翻ってCBP501併用臨床試験の特徴を見てみましょう。
CBP501とシスプラチンの組み合わせは、免疫細胞を傷つけないどころかむしろ活性化して、しかもがん細胞を直接攻撃する抗がん剤のがん細胞に対する作用を強めて、がん細胞が免疫細胞を呼び寄せるような死に方に導くことが、実験室から早期臨床まで一貫して示されています。
このような特徴を有する併用臨床試験は、見回しても数えるほどしかありません。
それくらい、CBP501+シスプラチンの組み合わせは理想的・・なはず、と考えています。
そもそも、2000年前後にキャンバスが確立した抗がん剤候補物質のスクリーニング方法は、抗癌剤のがん細胞への殺傷能力は強めるが、免疫細胞には悪影響を与えないものを選び出す方法でした。
そこから得られたのが、キャンバスの2つの臨床パイプラインCBP501とCBS9106/SL801です。
当時、抗癌剤が免疫細胞に悪影響を与えることがよくないと考えていたからです。
我田引水かもしれませんが、俗に「点と点がつながる」というのはこういうことかもしれないと思っています。
現在、CBP501+シスプラチン+抗PD-1抗体で膵臓がんの3次治療として承認を目指しているのは、その後の幅広いがん治療への適応拡大戦略の最初のステップです。
CBP501+シスプラチンを、免疫チェックポイント抗体と組み合わせる化学療法のスタンダードのひとつにするための、第一歩のつもりです。
引き続きご注目ください。
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