昨年末当社のCBS9106(先方の呼び方はSL-801です)を導出したStemline社から、昨日、SL-801の米国FDAへの臨床試験開始申請(IND申請)が完了したと発表がありました。
同社プレスリリース “Stemline Therapeutics Announces Opening of SL-801 IND”
これを受けて当社も本日朝、プレスリリースを開示しています。
『CBS9106(SL-801) 臨床試験開始申請(IND申請)完了のお知らせ』
このニュースは、昨年末のライセンス導出以来Stemline社と緊密な連絡を取り合いながら、自分たちの持っているCBS9106/SL-801に関するノウハウを提供してきたキャンバスチームにとっても、とても嬉しいクリスマスプレゼントでした。
自分たちの生み出した2つめの抗癌剤候補が、1つめのCBP501に続き、いよいよ米国で臨床試験に入る。
少なからず、達成感や期待感があります。
CBS9106/SL-801は、マウスまでの実験では、多発性骨髄腫や様々な固形癌など数多くの癌に対して、副作用少なく良い効果を発揮しています。
とはいえ、まだまだこれからも、たくさんのハードルを越えなければ「薬」になって人の役に立つ事にはなりません。
あらためて身の引き締まる思いもします。
臨床医をしていた頃、そして、基礎医学者になってからも、科学の進歩に比べて抗癌剤の進歩が遅いと思っていました。
もちろん、科学の進展が患者さんの役に立つ抗癌剤に反映されるまでには、たくさんのハードルがあります。
「資金」「やる気」「世の中の仕組み」と言った、時にはぶつぶつ愚痴や文句を言いたくなるようなハードルもありますが、科学・医学的な部分にも、大きなハードルがあります。
そのひとつは、
「マウスまでの実験結果がヒトでの効果を予測する上で案外当てにならない」
というものです。
分子生物学的に理屈がしっかり通っていて、試験管内やマウスの実験でもそのとおりの結果が出てマウスの癌(マウスに移植したヒト癌細胞株)にとてもよく効き、ヒトを対象とする臨床第1相試験(Phase 1)やその拡大試験(Phase 1b)でも安全性や薬効に期待の持てる結果を出した。
そのような化合物が満を持して対照群のある臨床第2相試験(Phase 2)に進み、その結果を解析すると、何と、この新薬候補を投与された患者群の方が、対照群(標準治療単独)よりも生存期間が短かった。
つまり、マウスやPhase 1bから予想されたのとは正反対の結果が出た。
そして直ちに、この薬剤候補の開発は中止になった。
このような例は、珍しくありません。
特に最近の抗癌剤開発では、日常茶飯事と言っても良いと思います。
10年ほど前、米国立癌研究所(NCI)で抗癌剤候補の探索部門を率いていたある米国人研究者が
「マウスに植えたヒト癌に効く化合物はいくらでも見つかるけど、ヒトの癌に効く物が見つからない。何を指標に探せばよいのかわからない」
と話していたほどです。
また、
「マウスの実験で効いた種類の癌にヒトでは全く効果がないのに、予想していなかった(実験すら行われていなかった)タイプの癌に著効が見られ、その後開発が進んで見事に承認に至った」
というケースもあります。
万有引力を発見したかの有名なニュートンが、人間の科学知識レベルについて
「広大な海を前にして砂浜にある貝殻を見つけて喜んでいるようなもの」
と言ったのとよく似ていて、我々の人体に対する知識は、まだまだ不完全です。
だから、マウスの実験結果を過大評価しても過小評価してもいけないのです。
先に書いたとおり、CBS9106/SL-801は、マウスまでの実験では、数多くの癌に対して、副作用少なく良い効果を発揮しています。
私たちは、このマウス実験結果を過大評価も過小評価もすることなく、これから始まる臨床試験(Stemline社は2016年の早い時期から臨床試験を開始する予定としています)で起きるあらゆる事象を注意深く観察・解析し、多くのことを学びながら進めていくことになります。
この話題は次回に少し続きます。
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