マネジメントブログ

CBP501は膵臓がん新薬開発競争のどんな位置にいるのか

先日の日比野のブログでお知らせしたとおり、もうまもなく、CBP501・シスプラチン・抗PD-1抗体の3剤併用による、膵臓がん3次治療としての臨床第2相試験が始まります。

私たちは現在までの臨床試験で、3剤併用療法の「安全性」と「効果の可能性」についての予備的な(早期臨床試験結果として十分な)データは既に得られたと考え、承認申請のためのピボタル試験を開始する価値がもうあると判断しています。
ですが、3剤併用療法の場合、FDAへ承認申請をするためには「3剤のどれが欠けてもダメ」ということを示す必要があり、ここまでのデータだけで最終試験をするとなると私たちの手に負えないほど規模が大きくなりすぎてしまいます。
そこで、今回の第2相試験を行います。

この第3相にほぼ手が掛かった状態である私たちの3剤併用療法は、膵臓がんの新薬開発競争の中でどのような位置にいるのでしょう。

ClinicalTrials.govのルールが変わった

新薬開発の主戦場である米国にはClinicalTrials.govというインターネットサイトがあり、先進国で行われる主な臨床試験はここに登録されます。
臨床試験の結果を主要な科学雑誌に載せたい場合は、この類のサイトへの登録が必須です。
また、そもそもきちんとした施設で臨床試験をするには、このようなサイトへの登録が必須です。
つまり実質的に、ここに登録しなければきちんとした臨床試験は実施できないしくみになっています。

したがって私たちにとってとても重要な情報源なのですが、つい最近まで、登録されている情報は試験開始時点の情報がほとんどで、表示されている臨床試験がその後どうなったのかは分かりませんでした。
結果を知るには、論文や学会発表、時には会社からのプレスリリースの情報を網羅することが必要でした。
とはいえご想像のとおり、うまくいかなかった試験の結果はなかなか論文として世の中に出ないので、全貌を把握することは不可能に近いものでした。

ところが、画期的なことに、最近になってルールが変わりました。
臨床第2相試験以降のものは、成功失敗にかかわらず、試験終了から短期間のうちに結果データをこのサイトに掲載することが法律で義務づけられたのです。
つまり、失敗した試験の中身を誰でもが見られるようになったのです。
失敗した試験がはっきりわかるようになったので、結果的に、現在「生きて」いる試験が特定できるようになりました。

膵臓がん開発競争で先頭集団にいるCBP501

そのClinicalTrials.govで膵臓がんの臨床試験第3相で「患者登録中あるいはこれから登録開始」の試験を検索すると、43件あります。

ここ1-2年の間に、大きな(有名な)第3相試験が立て続けに失敗に終わったこともあって、現在残っている43件の中で、私が「目新しい薬剤候補」と思えるのはTYME社のSM-88だけです。
しかもTYME社は、2つ行っている第3相試験のうち、私たちと同じ「3次治療」を適応とした試験を中止したと先月公表しました。

つまり、現在、私たちと同じ膵臓がんの3次治療を対象とした有望な第3相試験はありません。
私たちより前を走っているものはないのです。

次に、臨床第2相試験を検索してみます。
終わったものまで数えると、816件あります。

終わった中に成功したものがあればニュースになるはず(ニュースにならない理由は、サイトに公表された結果を見ればわかります)なので、現在も「生きて」いる開発は、おそらく無いと思われます。
つまり、私たちは現在、膵臓がんの新薬開発で先頭集団の一角にいる(私たちの贔屓目を加えると、頭ひとつリードしている)ことになります。

ライバルたちの様子

臨床第2相試験の中で、検索対象を「患者登録中あるいはこれから登録開始」に絞ると、279件。
つまり「816引く279」のおよそ500件余りは、成功しなかったことがわかります。
この数字からも、成功確率の低さが垣間見られます。
(もちろん、「成功しなかった」と言っても、私たちのCBP501が一旦は臨床第2相試験を「失敗」したあとでやったように、魅力の発見に各社が血眼になっているはずです。そこから復活してくるパイプラインが今後も無いとは言えません。)

現在も「生きて」いる可能性のある279件の内訳を少しだけ見てみると・・・

特殊な遺伝子異常(BRCA1)のある患者さん(膵臓がん全体の5%未満)を対象にした、既に承認されたPARP阻害剤と同じのものが、6種類。
抗体、あるいは抗体にさまざまな工夫をした抗がん剤候補が、約30種類。
細胞療法は、13種類。
ウィルスや微生物を使ったものが、7種類。
キナーゼ阻害剤は、26種類。
その他、これらの組み合わせなど、さまざまな抗がん剤候補の臨床試験が行われています。
もちろん、私たちのCBP501もこの279件の中の1つです。

これらの中から、近い将来、第3相試験に進むものがいくつ出てくるのか。
さらには、その第3相試験も成功して承認されるものがいくつ出てくるのか。

今すぐにでも新薬を使いたい患者さんが大勢待っておられる中、毎日全力を尽くしてはいますが、時間がかかります。
そして、とてつもなく低い成功確率と長くかかる時間の中、自分たちのやっていることが正しいのかどうか、これまでのCBP501のデータや他社の成功・失敗データなどについて、さまざまな角度から何度も何度も検討を重ねながら、それでも「進むことが正しい」と判断して、当局(FDA)規制の範囲で可能な限りのスピードで進めているのが、現在の私たちです。
他社も皆同様です。
キャンバスもこのスピードを維持し、最速での開発を継続していきたいと思っています。

CBP501のもうひとつの価値「新しい作用メカニズムの新薬候補」

さて、新薬開発には、大きく分けてつ2つのグループがあります。

ひとつは、すでにうまくいったものがあるときに、同じような作用のしかたでより良いものを生み出そうとして作られた新薬候補。
例えば、オプジーボのような抗PD-1抗体は、膵臓がんの試験だけを見ても12種類の異なる抗体が試験されています。

この類の新薬は、成功確率が高くより良い治療を提供できる可能性がありますが、残念なことに治療対象患者さんは増えません。

もうひとつは、今までうまくいったことがない、全く新しい作用のしかたで働く新薬候補。
成功確率は低いけれども、現在良い薬がない多くの患者さんへ恩恵をもたらせる可能性があります。
CBP501は、こちらのグループの薬剤候補です。

昔話になりますが、2003年頃に私たちがCBP501の早期提携を目指して日本国内の製薬企業に打診したとき、
「同じ作用メカニズムで承認された抗がん剤はあるか」
という質問を受けました。
もちろん「ない」と答えました。
すると返答は、
「それならば、開発しても薬になるかどうかわかりませんね」
でした。

2004年、米国でCBP501の臨床試験を始めようとしたとき、規制当局の担当者の方から全く同じ質問を受けました。
「同じ作用メカニズムで承認された抗がん剤はあるか」。
日本の製薬企業と同じような返答が来るのかもと思いつつ、おそるおそる「ない」と答えたところ、返答は
「すばらしい。そうした新しい薬を世に出すために私たち規制当局とあなたたち創薬ベンチャー企業がある」
でした。

私たちが開発しているCBP501は既存の固定観念から少なからず外れていて、私たちはそこにこそ価値を見出しています。
これまでの薬の恩恵に与れなかった多くの患者さんたちのために、また、その価値をご評価いただいてご支援くださる皆さんのために、是が非でもCBP501の開発を成功させたいと考えています。