マネジメントブログ

臨床試験データ比較検討の現場をお見せします(第5回)

前回までにご紹介したのは、未だ新薬承認にこぎつけた(成功した)わけではない臨床試験のデータとの比較ばかりです。
既治療歴の多い膵臓癌の臨床試験に「成功」が少ないのでしかたがないのですが。
それらよりも感触が良ければ、「失敗ではなさそうだ」の判断はできますが、それだけでは
「成功しそうか(新薬として承認されそうか)」
を判断することはできません。

今回は、「近年FDAで承認された新薬の臨床試験との比較」と「薬力学的評価」のふたつを使って、CBP501の実力を検討します。

※お願い
本連載の初回に、本連載をお読みいただくにあたってご留意いただきたい点をまとめてあります。お手数ですが初回から順にお読みくださるようお願いします。

近年FDAで承認された新薬の臨床試験と比較する

膵臓癌の2ndライン(2回目治療)で近年FDAの承認を受けたのは、Liposomal-irinotecan(Onyvide)だけだと思われます。
その臨床第3相試験(Napoli-1試験)の開始を決定づけた臨床第2相試験は、「3ヶ月の全生存率65%超」を主要評価項目の成功のハードルとしていました。

その臨床第2相試験の結果は、3ヶ月の全生存率75%。
成功です。
(但し55%が台湾人。既にお話ししたとおり、アジア人は一般に予後がよく、良い数字が出やすい傾向がありますから、少し割り引いて考える必要はあります。それでも成功には変わりありません。)

この臨床第2相試験で組入れられたのは全体で40名。
すべて2回目治療です。

結果は、
・奏効率 7.5%
・病勢安定化率(42日超) 42.5%
・PFS 2.4ヶ月
・OS 5.2ヶ月
でした。

対するキャンバスのCBP501フェーズ1b試験の現時点の参考値は、
・奏効率 25%(1/4)
・病勢安定化率(120日超) 50%(2/4)
・PFS 3.1ヶ月
・OS 5.6ヶ月
です。

繰り返しになりますが、CBP501フェーズ1b試験の対象患者群は大半が3回目以降治療なので、そのままの比較はできません。
また、今のところは症例数が少なく、あくまでも参考値です。
とはいえ、
「承認にこぎつけた(成功した)近年の臨床試験と比べて今のところ遜色がない」
とは言えそうです。

薬力学的評価

他の臨床試験との比較が続きましたが、ここでご説明するのは、これまでとは毛色の違う話題です。

薬剤にはすべて、(主張・説明されているものがすべてかどうかは別として、)作用機序があります。
作用機序とは、薬剤が身体に影響(治療効果)を及ぼすしくみ・メカニズムのことです。
通常、薬剤が体内のどの分子と相互作用して何が起き、それが次の作用を引き起こして…といった一連の流れで説明されます。

CBP501は、
・癌細胞のみで抗癌剤シスプラチンの流入量を増やす
・癌細胞の「免疫原性細胞死」を増やし、身体の免疫メカニズムが腫瘍の存在を捕捉しやすくする
・腫瘍の周囲に存在する免疫抑制的M2マクロファージの働きを抑制し、オプジーボなど他の免疫系抗癌剤の働きを強める
・癌の転移や浸潤を抑制する
といった作用機序を持つことが非臨床試験で確認できており、これらの働きで効果を示すと考えています。

もし、これらの作用機序どおりのことがヒトの身体の中でも起きているとわかれば、非臨床試験のマウスで確認したのと同様にヒトでも効果が発揮されると考え得る有力な傍証情報であり、臨床試験の「感触」のひとつと考えることができます。

CBP501フェーズ1b試験では、治療の前と後で患者さんの癌組織を一部採取し(生検)免疫組織染色をして、私たちがあらかじめ想定した作用機序どおりのことが治療によって起きているかどうかを検討しています。

今のところ、非臨床試験で想定した方向に沿った染色結果が出ています。
(なお、具体的に何を見ているかなどの詳細については、現時点では非公表です。いずれ学会発表等で公表します。)

こういった検討も含めて私たちは、決算報告会等でご説明しているようにCBP501フェーズ1b試験を「好感触」と公表しています。

✽ ✽ ✽

CBP501フェーズ1b試験はオープンラベル試験なので、組入れが進むにつれて、得られる情報は日々増えていきます。
最終的な結果の取りまとめはしばらく先になりますが、中間的な情報から得られる「感触」が固まり最終結果を高い精度で予測可能になるまでの期間は、さほど長くはないと私たちは考えています。

私たちが実施している比較検討の一部をこの連載で知っていただき、今後キャンバスの公表するさまざまな臨床試験情報を読むための一助としていただければ幸いです。

これで、ひとまず当面の短期集中連載は終わります。
次回以降は連載のペースを元に戻し、タイトルも変えて、これまでの説明に登場した臨床試験関連指標(奏効率、病勢安定化率、PFS、OS…)などについてもう少し掘り下げていく予定です。

(短期集中連載終了)