マネジメントブログ

創薬パイプラインの価値を考える (連載2) 現在価値の4つの要素

創薬パイプラインの価値の考え方について、前回に続いて話を進めます。

冒頭に、しつこいようですが、前回も書いたディスクレイマーを繰り返しておきます:
各方面のプロフェッショナルの方々には「何という雑なことを書いているのか」と笑われ怒られるかもしれませんが、幅広い方々にご理解いただくことを最優先し、ここに書いていないひととおりのことはわかった上で敢えて細部を捨象して書いているということでご寛恕ください。

上市成功後の利益

医薬品研究開発の最終的な目標は、候補品の開発を進めて医薬品として承認を得て上市し、その売上から利益を獲得することです。
製薬企業等と提携してライセンス導出し契約一時金やマイルストーンによる収入を実現するのは、上市成功後に見積もられる利益の一部を先取りしつつ開発リスクを提携先に負担させるものですが、その提携先はやはり同じ「上市後の利益」を見据えて提携に合意するのだし、提携内容や規模もその想定内容によって決められるのですから、最終目的が「上市後の利益」であることには違いありません。

その実現によって想定される利益を、時間や成功確率などを織り込んで現在に割り戻したものが「現在価値」です。

ここでは、「上市成功後の利益」を大胆に単純化し、この図のような長方形で表すことにします。
横が利益の実現する期間、縦が利益の大きさです。

この長方形が、今は研究開発の成功確率と長い開発期間のかなたに霞がかかって朧げに見えています。

私たちの日々の活動を大雑把に言ってしまうと、
「この長方形を実現し、実現したときの長方形を少しでも大きくするために、今やるべきことをやっている」
ということになります。

現在価値を変動させる4つの要素

さて、さきほどの図を分解して、実現・最大化のための活動を

「成功確率を高める」

「開発期間を短縮する」

「利益規模を大きくする」

「利益実現期間を長くする」

の4つの矢印で表します。

これらの矢印が変化することはすなわち、パイプラインの現在価値が変わるということです。

これらの具体的な数値、たとえば「成功確率は○%」「開発終了までは○年」「上市成功後の利益はかくかくしかじか」などがすべてわかれば、適正な現在価値の絶対額「○○億円」が出せるかもしれません。
それを実際に算出し投資家の皆さんへ主張するのは発行会社である私たちのやることではないので、各投資家の皆さんやアナリストの皆さんにお任せすることにしています。
その結果の一部はアナリストレポートとして公表されています(たとえばこちらのIFISレポート)ので、適宜ご参照ください。

現在価値の変動と適時開示

キャンバスを含む研究開発段階の創薬企業への投資をどのような考えでなさっているかは、投資家の皆さんそれぞれ異なると思います。

中には、
「臨床試験がもっと進んだあとならまだしも、現時点では少々のことで価値は変わらない」
「提携獲得でキャッシュの入るニュースがいつ来るかにしか興味がない」
というかたもおられるでしょう。
そうしたお考えの投資家にとって、キャンバスがおこなっている適時開示やインベスター・リレーションズの多くはさほど意味がないということになります。

一方、私たちは、多くの投資家の方たちはその実現を中長期的に展望しておられ、短期的にはその中間成果として各パイプラインの現在価値が変動することに注目しておられるであろうと考えています。

したがって、現在価値の変動は多くの投資家の投資判断に影響を与えると考え、前回のブログで書いた「投資判断に重要な影響を与える情報」とはこれらの矢印が変化する情報のことであると定義して、適時開示やこのブログをはじめとするインベスター・リレーションズを展開しています。
他の創薬企業各社の適時開示を見回しても、概ね同様のお考えと感じています。

さて次回以降、これら4つの要素を順にご説明していきます。

(続く)