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パラダイムシフト(その1)

2015年07月28日 12:30

河邊 拓己

パラダイムシフト。
これまで当然のことと考えられていたことが、革命的に変化することです。

これから何回かに分けて、2015年まで数回の米国癌研究会議(AACR)と米国臨床癌学会(ASCO)で私の見てきた、癌治療法開発のパラダイムシフトについてお伝えしたいと思います。
なお、そもそも癌と十把一絡げに言うのは間違っています。進行の早い癌もあれば遅い癌もあるし、見つかった時期によって、経過を観察するだけで良い癌もあるし手術で治る癌もあります。同じ名前の癌でも、一人一人、また、同じ一人の患者さんの身体の中の癌でも異なった性質を持っていることがわかっています。
ここでは便宜的に、手術では治せず化学療法が標準治療となっている癌(例えば、進行してしまった肺癌・膵臓癌・卵巣癌などの多く、いま治せない癌)をひとかたまりにして、その治療法開発の話をします。

✽ ✽ ✽

過去50年ほどの間、手術が適応にならない(手術をしても良くなる可能性がなく、むしろかえって余命を縮めてしまうことがわかっている時期・種類の癌)程度にまで進行してしまった癌の治療法は、放射線と化学療法(抗癌剤投与)しかありませんでした。
この化学療法、日本では悪名ばかりが高くなってしまっていますが、白血病・悪性リンパ腫・睾丸腫瘍、そして、術後化学療法などで、無数の癌患者さんを完治させていることを忘れてはいけません。とは言っても、化学療法で治せない患者さんはその何十倍もおられます。

2000年頃から、「いわゆる分子標的薬」にスポットライトが当たるようになりました。
時期を同じくしてヒトの全遺伝子配列を決定する事が可能になったこともあり、発言力の大きな人の間で、
「患者さん一人一人の遺伝子解析結果に合った分子標的薬が開発され、全ての癌を治す時代がすぐ目の前に来た」
ということになったのです。

かつて私が学生の頃(1970~80年代)、
「夢の抗癌剤開発 実用化まで5年」
という記事が頻繁に新聞紙面に踊ったのを、彷彿とさせる風景です。

一方、この頃、慎重な基礎医学者であれば、そうはならないと考えられる理由を5つぐらいは簡単に言えたはずです。
基礎医学に主軸を置くAACR年次総会でも、既に2010年には、「いわゆる分子標的薬」の限界について癌の分子生物学の重鎮であるVogelstein博士がプレナリーセッションでこう語っていました。
「ここまで来て我々は、癌が、思っていた以上に複雑であることを知った。
これまでのやり方(=分子標的薬)で癌を克服することには限界がある。
君たち若い研究者が思いもよらぬ方法で癌の治療法を見つけ出すことに期待している」

その後も、2013年、2014年と、臨床試験に主軸があるASCOでも「いわゆる分子標的薬」が大部分の患者さんに恩恵を与えないという事実が語られることが次第に多くなってきていました。

それなのに、この間も日本では、全遺伝子解析のコストが一人あたり数十万円まで下がったとも言われていることもあって、マスメディアも含めて
「これから本格的な『分子標的薬』の時代が来る」
「癌は個別化医療で治す時代になり、従来型の化学療法は不要になる」
の大合唱が続きました。
今ほど情報入手が容易な時代に、なぜこれほど米国と日本の間に現状認識の時間差があるのか。
まるで、かつてよくあった、欧米でダメだととっくに証明された治療法を日本に持ってきて最先端医療と称した話のようです。


「その2」につづく

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