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CBS9106(SL-801)臨床第1相試験途中経過への所感

米国Stemline社へキャンバスから導出した抗癌剤候補化合物CBS9106(同社における開発コード:SL-801)について、スペイン・マドリッドで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で臨床第1相試験途中経過報告のポスター発表がおこなわれました。

詳しい内容は、今日開示した当社のプレスリリースをご参照ください。

以下は、私の所感です。

CBS9106に限った話ではありませんが、初めてヒトに投与される臨床第1相試験はすべて、効果の期待できないとても低い投与量から試験が始まります。
その後、段階を追って、副作用が出ないか注意深く観察しながら、投与量を増やしていきます。
(「用量漸増試験」といいます。)

特に抗癌剤の臨床試験では、この第1相試験で効果が期待できる投与量に到達する前に毒性が出てしまい、その抗癌剤の開発が永遠に終了してしまうという、いわば「サドンデス」とも言うべき事態がよく起きます。
いくら事前に培養細胞や動物で毒性の検討をしていても、ヒトで思わぬ事象が起きるのを完全に回避することはできません。

ですから、この試験の間は、それまでに実施した非臨床試験のデータがどんなに素晴らしくても、いつ何があるかわからないと、不安でドキドキしながら過ごすことになります。

そして、だからこそ、効果の期待できる投与量に到達するこの時期を乗り越える前なのか・乗り越えた後なのかによって、その薬剤候補の提携に向けた価値(見積もられた成功確率)が大きく変わります。

今回のStemlineのポスター発表で報告されたとおり、CBS9106(SL-801)は第6コホート(40mg/日)まで用量の漸増が進められています。
これだけ多数のステップを(「サドンデス」にならずに)上がってきたこと自体が、まずは喜ばしいことです。

また、血中濃度が30 ng/mlを超えていることも報告されました。
この値は、過去のCBS9106非臨床試験データと照らし合わせると、
「とても感受性の高い癌であれば効果が出てもおかしくない血中濃度を達成した」
と言える血中濃度です。
もちろんこの数値だけで判断できるわけではないのですが、判断材料のひとつではあります。

しかも、目立った副作用が見られていないというのは、とても嬉しいことです。

これらを併せて考えると、今回発表された内容は、
「初めてヒトに投与される臨床試験に存在する大きな壁を一つ乗り越えた」
あるいは
「最低ラインの合格基準は超えた」
と評価し得るものだと考えています。

もちろん、これよりもさらに高い投与量がこれから試されていくのですが、最悪でも(つまり、これよりも上の投与量で万が一毒性が出ても)、現在の投与量で効果の見られる癌を見つければ薬になる、という期待が膨らみます。
これもCBS9106に限った話ではなく、有望な化合物については
「効果のある癌を探す臨床試験を重ねる」
という手法が、抗癌剤開発では広く行われているからです。

ですから、当社リリースに記載のとおり、今回の発表は

本件による当期業績への影響はありませんが・・・<中略>・・・CBS9106の日本・中国・台湾・韓国エリアでのライセンス導出交渉への好影響が期待できるほか、当社の中長期的な企業価値の向上に寄与するものと考えています

という表現になるのです。