マネジメントブログ

事の顛末をご説明します

10月24日の開示『「第三者割当により発行される第15回新株予約権及び第3回無担保転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ」の一部訂正について』は、ファイナンスの手続き上自動的に必要となっただけの(この公表で何が変わるわけでもない)適時開示だったのですが、さまざまな憶測や誤読が飛び交ってしまったようで、たくさんお問い合わせもいただいています。
(それでも、即日のツイッター投稿のおかげで最悪の誤読だけは免れたようで、少しホッとしています。)
今日のブログでは、この開示を巡って何が起きたのか、しっかりご説明します。

長い文章がお嫌いなかたのための3行サマリーはこちらです:

・このたびは趣旨のわかりづらい開示でごめんなさい。
・公表が不自然なタイミングや内容になったのは当局からの要請に伴う不可抗力でした。
・譲渡制限条項の有無は、今回のケースでは実質的に何も変わらないのでご安心ください。

事の顛末と解説

適時開示の文章だけ読むと趣旨がわかりづらく内容も複雑そうに見えますが、現実に起きた事の顛末は、(下記(5)の部分を除くと、)意外なほど単純です。

時系列で書くと次のとおりです。

(1) アドバンテッジアドバイザーズと当社との間で、事業提携とそれに伴うファイナンスの合意が成立

(2) 合意に基づくファイナンスの実行のためには事前に「有価証券届出書」を提出する必要があるので、提出先である財務局に合意に関する全条件を提示して綿密な事前相談の上で作成

(3) 10月10日、合意内容をキャンバス取締役会で承認。これに基づきアドバンテッジアドバイザーズとの諸契約を締結した上で、有価証券届出書を財務局に提出

(4) 同日、この内容をTDNETにも公表

・・・ここまでの流れは通常どおりでした。
通常は、このあと所定の日数が経過すれば有価証券届出書の効力が発生してファイナンスを実行できる状態になり、払込を待つのみです。

しかし今回はこのあとで、いつもと異なることが起きました。

(5) (4)までがすべて完了した後で、財務局からキャンバスに対し「有価証券届出書の内容について追加の記載をしていただきたい」との連絡が入る

・・・ちょっと解説をはさみます。

ファイナンス実務のご経験のないかたがときどき誤解しておられますが、有価証券届出書は「ダメもと」のように突然提出して受理されるものではありません。
数週間前から財務局との間で「事前相談」を綿密に行い、ファイナンスの内容の隅々まで、何往復もの質疑や記載修正(多くの場合は投資家の皆さんに誤解を生じさせないための加筆)を経て、「これでOK」という返答を受けてから提出するものです。
当社も事前にこれを済ませ、OKの返答を受けてから10月10日に有価証券届出書を提出しました。
つまり今回は、すでにひととおり隅々まで確認して一旦は受理した有価証券届出書について、財務局が当社に記載追加を要請したわけです。

これはとても珍しいことで、こういった事務に精通している大手弁護士事務所のかたがたも驚いていました。
通常であれば、このような記載追加の指示は事前相談の間になされるし、場合によっては「このままでは受理できない」という返答があり、その場合には提出自体ができません。
(事前相談の間にお互いに気づかなかった数値や文章の誤りが発見されて訂正を求められることはありますが、記載する内容を追加する要請が受理後に出されることはほとんどありません。)

今回、記載追加を要請されたのは、公表資料のとおり、社債や新株予約権に「譲渡制限条項」が付いていないこと(そのことについてはあとで追加でご説明します)に関する詳細な説明でした。

譲渡制限条項のないこと自体は、過去に他社事例があります。 それらにおいては記載追加が要請されていなかったように見受けられることから、今回この要請が発せられた背景について説明を求めました。

財務局からの説明によると、今回この要請が発せられた背景は、 「当社のみに対する要請というわけではなく、譲渡制限がないことを利用していわゆる反社会的勢力等を利するようなファイナンスがなされてはならないとの懸念」 とのことでした。
キャンバス公式ツイッターのツイートでもおしらせしたとおりです。

つまり、譲渡制限条項がないからダメということではなく、その形式にした背景が合理的に説明され、必要な(たとえば、譲渡制限条項がないとはいえ不本意な譲渡が実質的になされないような)合意が形成されていれば懸念は払拭されるということで、それらの内容を記載追加せよとの要請です。

一部の投資家の皆さんの間で、
「ファイナンスを発表したあとで譲渡制限条項をなくしたから説明が必要になった」
という誤解があったようです。
事実は、譲渡制限条項は(1)の段階でもともとなかったし、(2)の段階でもその旨を詳しく事前相談して有価証券届出書を作成し、1010日のプレスリリースにも明記しているとおり、当初から譲渡制限条項はついていません。

・・・話を顛末のご報告に戻します。

(6) 記載追加要請を踏まえ、財務局と相談しつつ、その他の訂正を含めた訂正有価証券届出書を作成し、10月24日に提出

(7) (6)に伴い東京証券取引所への適時開示も自動的に必要となったので、同日公表

以上が、事の顛末です。
公表のタイミングや内容が一見不自然だった理由は、この説明でご理解いただけると思います。

譲渡制限条項があるのとないのとで実質的に何が違うのか

ことの本題である「譲渡制限条項の有無」は、一般論でいうと、いろいろと違いがあります。
ですが、一般論を書き始めるときりがないので省略し、今回のケースについて書きます。

今回のケースでは、譲渡制限条項があるのとないのとで実質的に何が違うのか。

今回のケースでは、実質的に何も違いません。

そもそも今回のケースでは、
「経営上のアドバイスなどを同社から受け共同で当社の中長期的な企業価値向上を図る事業提携の一環であり、アドバンテッジアドバイザーズと当社は中長期的な関係を想定している」
「新株予約権や社債を中長期的に保有する方針の説明を受けている」
といった状況と相互の信頼関係から、そもそもアドバンテッジアドバイザーズと関係のない先への譲渡自体がほぼ発生しないという大前提があります。
もちろん、信頼関係を一方的に破棄されるおそれがゼロというわけではありませんが、こういった事業提携や投資を業としている会社においてそのような行動は信用を大きく損ねますから、一般的にまずあり得ません。
特に、今回の事業提携の相手方であるアドバンテッジアドバイザーズがそのような暴挙に出るのは、過去の同社や同社グループの活動履歴からみて考えづらいことです。

また、それでも万一そういった事態が発生したときに備えて、当社は割当予定先から必要な情報を事前に受け取る旨を合意しています(それを受領したときは当社は速やかにその旨を開示します)。
事前に受領する情報には、譲渡予定先の反社調査などをするために必要な情報も含まれていますから、当社の意図しない先への譲渡はかなり抑止できます。

例外的に、アドバンテッジアドバイザーズがサービスを提供している他のファンドへ当社の新株予約権や社債が移管されるケースが考えられます。
同社のように複数のファンドにサービスを提供する会社の場合、このような移管は珍しくありません。
そういった移管であれば、基本的に当社にとって不利益はなく、譲渡制限条項の有無に関わらず譲渡に協力することになるでしょう(もちろん、そのケースであっても事前に情報を受領できることになっています)。
そのときのコストや手間は、譲渡制限条項がなければ大きく節減できます。

これらのことから、譲渡制限条項の有無は、今回のケースでは、実質的に何も変わりません。 ご安心いただければと思います。

おおごとでないことを「おおごとでない」と説明する難しさ

以上ご説明したとおり、今回の公表はひとことでいうと「おおごとでないこと」で、当初のプレスリリースでも淡々と事実のみを公表しました。
ファイナンスの専門の人々だけであれば、ざっくり読んで「ふーんなるほど」と受け流されるような、事実のみの情報です。

ですが、義務付けられている形式に沿った適時開示はどうしても大仰になりがちだし、このブログのような詳細な長文も似合いません。
「ひとことでいうとおおごとではありません」とも書けません。
そのため、何らかの先入観(たとえば「資金調達は内容に関わらずすべて怪しい」など)を持っている方々や、気になるいくつかの単語や文章だけをとりあげて「これは怪しい」と思ってしまう方々、あるいは「要するに良いニュースなのか悪いニュースなのかはっきり書いてほしい」と思う方々にとっては、今回のような公表はひたすらに不審なもの・裏に何かあるものと映ったと思います。

いったん不審に思われてしまったものを覆して
「そのご理解は違う」
「想像されているような裏は何もない」
「おおごとではない」
とご説明するのは、本当に大変です。
長文が必要になりますからそもそも読んでいただけなかったり、読んでいただけてもそれが長文だということだけを見て「長々と言い訳をしている」と吐き捨てられたりします。
この記事も「言い訳がましい」とおっしゃるかたはおられるでしょう。

とはいえ、一部の方にそう思われクドいと言われ煩がられる程度にしっかりと情報を発信するくらいでちょうど良いのが、インベスター・リレーションズだと私は考えています。
たぶん、敏感な方に煩がられるくらいで、平均的な方々にとってはちょうど良いはずですから。

そういったインベスター・リレーションズを実行する上で、即時性や双方向性のあるツイッターと長文をしっかり書けるブログの二本立てで発信手段を持っていることは、当社の強みの一つになっています。
これからも同様に進めていきますので、投資家の皆様、今後もよろしくお付き合いください。