このところCBP501に関するニュースや情報ばかりになっていましたが、Stemline社に導出しているCBS9106/SL-801の順調な近況についても、久しぶりにお知らせしようと思います。
併せて、周辺情報についても少し。
キャンバスは、自社の探索システムから創出し独力で前臨床試験を完了していたCBS9106を、2014年に米国Stemline社に導出しました。
その時点では日本・中国・台湾・韓国の権利を留保していましたが、昨2018年、留保していたこれら地域の権利もStemline社に導出し、これによって全世界の権利をStemline社に導出したことになります。
2014年の導出以来キャンバスは、彼らの臨床試験が順調に進むよう、導出までに獲得していたCBS9106に関わるノウハウを継続的に提供するとともに(その対価として技術アドバイザリーフィーを受領し)、彼らの臨床試験の進捗状況の情報共有を受けながら今日に至っています。
一方Stemline社は、CD123を標的とした同社の抗癌剤候補SL-401を、大手製薬企業等の提携に依存することなく独力で臨床開発し、昨年末、FDAから市販承認を勝ち取りました。
現在はELZONRIS® として販売を始めています。
ELZONRIS®の適応疾患は、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍という、患者数の少ない血液癌です。
抗癌剤開発の常道通りに、まずは患者数の少ない領域で承認を獲得してから、の適応拡大を目指して、現在も複数の臨床試験を行なっています。
また、「抗癌剤の臨床開発を行うベンチャー」から「薬剤の販売までを手がける製薬会社」へと変貌・成長の過程にあり、従業員も増えてとても活気のある状態にあります。
そんなわけで、現在、ウェブサイトや会社紹介資料など彼らの情報発信はELZONRIS®一色といっても過言ではない状況になっています。
とはいえ、その裏で彼らは、製薬会社として今後継続的に成長していくためにも、これまで以上に後続パイプラインの充実にも力を入れており、SL-901、SL-1001と新しいパイプラインの導入も行なっています。
最近開催されたキャンバス-Stemline社共同開発会議でも、これまでと変わらない力強さでSL-801(CBS9106)の臨床開発を進めている様子が確認できました。
彼らが自ら開示している以上のことは勝手にお話しすることができませんが、これまでに開示されている内容に沿って、動物実験から想定されていた通りに投与スケジュールの改善を行い、順調に臨床試験が進められています。
そのさなか、今月、Karyopharm社という米国のベンチャー企業が、同社の抗癌剤候補XPOVIOTM (selinexor)について米国FDAから市販承認を獲得したと報告しました。
Stemline社と同様にKaryopharm社も、自社で開発していた抗癌剤候補を、独力で同社として初めての市販承認まで持ってきました。
従来、
「早期臨床まで自社で行なって、大きな資金の必要な後期臨床試験以降は製薬企業にバトンタッチする」
という形が創薬バイオベンチャーの基本的一般的なビジネスモデルであるといわれてきましたが、最後まで自社で開発し販売するという、もう一歩踏み出した形が立て続けに起きたわけです。
以前ご紹介したことがありますが、このKaryopharm社は、キャンバスがCBS9106について2009年に全米癌学会で発表をしていた時に
「私たちもCBS9106と同じ標的を狙って薬剤開発をしようと思っているけれども、まだ、ベスト化合物(=前臨床試験をすると決めたもの)が見つかっていない。君たちは見つかっていて良いね」
と私たちに言っていた会社です。
その後、キャンバスがCBS9106の前臨床試験を終えて臨床試験のパートナーとなる企業を探している間に、私たちを追い越したばかりかついには市販承認にまでこぎつけました。
Karyopharm社のselinexorとSL-801/CBS9106は、同じ標的XPO-1を阻害する抗癌剤および抗癌剤候補です。
これまで、XPO-1を阻害する抗癌剤は開発されていませんでした。
せっかく先に走っていたのに追い越されてしまったのは残念ですが、これはキャンバスにとって大変良いニュースです。
「良いニュース」と負け惜しみで言っているわけではありません。
そこには「標的分子の検証」という、抗癌剤開発特有の事情があります。
抗癌剤を開発する方法はいくつかあるのですが、現在最も多用されている方法は、
「正常細胞にはあまり重要ではないけれども癌細胞にとってなくてはならない分子(=標的分子)を見つけ、それを阻害する薬剤を開発する」
というものです。
この標的分子を選定する際には、「この分子を阻害したら本当に抗癌剤ができるかどうか」の検証が重要になります。
検証には、さまざまなレベルがあります。
大雑把には、①動物実験で検証されたもの、②早期臨床試験で検証されたもの、そして、③市販承認された薬剤ができたもの、の3段階です。
もちろん、③が最強です。
薬剤候補を導出しようとする際には、製薬会社からどのレベルで検証された標的を狙った薬剤候補かを必ず質問されます。
それによって、成功確率が異なると考えられるからです。
XPO-1という標的分子は、これまで①かせいぜい②のレベルの検証しか済んでいなかったのですが、Karyopharm社のお陰で、晴れて③の
「最も高いレベルで検証された、抗癌剤開発に使える標的」
となりました。
このことは、SL-801/CBS9106の理論上の成功確率が上がったことを意味します。
創薬・製薬の世界では、理論上の成功確率がそのパイプラインの価値の算出に大きな役割を果たします。
その点で、SL-801/CBS9106の理論上の価値が今回上がったことは、キャンバスにとってもStemlineにとっても、大変な朗報なのです。
とは言っても、一番にならなかったのだから価値が下がるのではないか、とも思えますよね。
その疑問に対しては、「価値が上がる/下がるではなく、異なる価値を追求することになる」というのが回答です。
これは抗癌剤に限ったことではなく、薬剤開発の世界には、「ファースト・イン・クラス」と「ベスト・イン・クラス」という言葉があります。
ファースト・イン・クラスとは、「ファースト」の文字通り、その標的を狙った薬剤で初めて市販承認を得たものを指す言葉です。
XPO-1を標的とした薬剤としては、selinexorがそれに該当することになり、2番目以降の薬剤ができるまでは市場を独占できます。
しかし、2番目以降が出てくると、今度は、同じ標的を狙った薬剤の中でどれが一番良いかが鍵になります。
その段階に来ると、同じ標的を狙った薬剤の中で一番良いものが「ベスト・イン・クラス」と呼ばれ、最大の利益を生むことになります。
ファースト・イン・クラスの名をselinexorが獲得したことで、XPO-1を標的とした薬剤の開発競争は、ベスト・イン・クラスを目指すものに変わりました。
CBS9106/SL-801は、もともとXPO-1を分解に導く作用が強く、作用発現濃度と副作用発現濃度の差が大きい(セラピューティックウィンドウが広い)ことから、同じ領域の他の抗癌剤よりも良い抗癌剤になる可能性があると期待しています。
(これまで何度か繰り返し書いているので、その「期待」の背景は今回は省略します。CBS9106のご紹介はこちらです)
つまり、CBS9106/SL-801はファースト・イン・クラスにはなれなかったけれども、まだ、ベスト・イン・クラスになれる可能性が十分にあるということです。
さらにもうひとつ、抗癌剤の世界は他の疾患と少し状況が違います。
それは、癌の種類やステージによって、そして同じ癌・ステージであっても最初に使うのか他の抗癌剤が効かなくなってから使うのかによって、それぞれ、別々に承認を取るしくみになっていることです。
つまり、同じXPO-1を標的としている薬剤でも、承認を獲得する方法はとてもたくさんあって、その使い方ごとに、独占的に使用されることになります。
今のところ、Karyopharm社に先を越されたのは
「多発性骨髄腫で、しかも複数の抗癌剤が効かなくなった患者さん」
を対象とする部分だけです。
XPO-1を標的とした抗癌剤が効果を発揮するであろう領域は、まだまだ広く残されています。
というわけで、Karyopharm社によるXPOVIOTM (selinexor)の市販承認取得のニュースは、私たちにとって、(追い抜かれてファースト・イン・クラスを奪われた残念さ・悔しさといった気持ちの問題だけを除けば、)とても良いニュースなのです。
私たちはStemline社とともに、CBS9106/SL-801がベスト・イン・クラスの抗癌剤となるよう、これからも開発を進めていきます。
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