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【IR対談】いちよし経済研山崎氏(第2回)「癌免疫に舵を切った背景には何があったんですか?」

長年にわたり一貫してバイオベンチャー業界のトップアナリストとしてご活躍中のいちよし経済研究所首席研究員山崎清一氏とキャンバス河邊の対談を、3回の短期集中連載でお届けしています。
(第1回はこちら

キャンバスは肺癌臨床試験失敗のあと正しい方向に舵を切った

(キャンバス河邊(以下河邊))
先ほどご指摘いただいた非小細胞肺癌の臨床第2相試験で主要評価項目未達成となったとき、その後いちどしゃがんで、乗り越えて次へ進んできているわけですけれども、そう決めるまでの間のキャンバスは、まさに自ら懐疑的に検証したステージだったと思います。
あのあたりの経緯を、山崎さんはどのように見ておられたでしょうか。

(いちよし経済研究所山崎氏(以下山崎))
「これは上手く正しい方向に動いたな」
という印象です。
ヨイショじゃなくて(笑)、本当にそう思っています。

(河邊)
ありがとうございます。

(山崎)
もともとCBP501は「G2チェックポイント阻害剤」「カルモジュリン阻害剤」と標榜されていましたよね。

(河邊)
はい。「阻害剤」と区別するために「モジュレータ」と呼んでいます。

(山崎)
そういう名称を用いて、当初は「シスプラチンなどのプラチナ系抗癌剤の効果を上げる」というメカニズムとして捉えられていて、そのメカニズムを前提として臨床試験を実施して、その結果、片方(悪性胸膜中皮腫)は上手く行ったけれどもう片方(非小細胞肺癌)は上手く行かなかった。
そこで「癌免疫」という方向にグッと舵を切っていった。
あの流れは「あっぱれ」だったと思っています。

この機会に河邊さんに逆にお尋ねしたいのですが、もともと何がきっかけで「プラチナ系抗癌剤の増強」だけでなく「癌免疫」に目が向いていったのでしょう。
あの背景には何があったのですか?

没頭から顔を上げたら周囲は癌免疫一色だった

(河邊)
CBP501の未知のメカニズムを探る時点では、実は「癌免疫」にたどり着くとは一切思っていなくて、CBP501のことだけを考えていました。
世の中で癌免疫が進んできていること・注目を浴びつつあることはもちろん知っていましたが。
一番のきっかけは、「あの試験はなぜ失敗したんだろうか」という考察です。
オープンラベルの臨床試験で、試験中からずっと患者さんのカルテ(CRF)が見える状態だったので、その間ずっと、白血球の多い患者さんの余命が短いような気がしていたんです。
余命の短い人のカルテを見ると、必ず初めの段階で白血球の値が高い。
自分も医師として臨床経験があるものですから、ちょっとそれが気になっていました。
試験が終わってみて、結果に落ち込みはしたのですが、かねて気になっていた白血球の値で分けてみたところ、劇的に統計的有意差があったのです。
p値は0.0001未満、生存曲線のカーブの分かれ方も本当に劇的な差でした。
そこで、「これは何かあるに違いない」と考え、次に「何が起きていればこうなるのだろう」と考えました。
その時はもう本当に、研究者になって以来いちばん勉強したくらいです(笑)大量の論文を調べて。
最初は、白血球の大半を占める好中球にCBP501が何かしているのだろうということで実験してみたのですが、好中球に対しては一切何もしていない。
そこでもう一度落ち込んで(笑)、もう一度調べ直して。

(山崎)
なるほど(笑)

(河邊)
その結果、CBP501がマクロファージの働きを阻害しているのではないかという仮説にたどり着きました。
そうすると、調べていけばいくほど辻褄が合うんですね。
好中球がNETというのを出していて、それをマクロファージが食べる仕組みを阻害してしまうと、血栓ができたり転移が起きやすくなる。
理論としては辻褄がすごく合ったんです。
「これかもしれない」ということで大急ぎでそれに関わる実験を研究チームに指示したところ、次々と、思ったとおりの結果が出てきました。
私は長い間基礎研究者をやってきて、研究なんてものは9割がた予想が外れ、机上で考えた仮説どおりの実験結果などたいてい出ないと思ってきているのですが、その時期は本当に、次から次へと、仮説どおりの結果が出てきました。
さらに続いて、CBP501によるマクロファージの抑制作用、それが「免疫を抑制しているマクロファージ」の抑制であること、CBP501が癌幹細胞を減らしていること、しかも、それまでは「シスプラチンの作用を高める」と言っていたのですが、ただ癌細胞を死なせるのではなくて「免疫原性細胞死」というアポトーシスとは違う死に方に導くということも、その過程で見つかりました。
研究室の中ではそういうデータがどんどん蓄積していき、全部をまとめるとこういう絵になるよね…となったとき、没頭していた頭をふと上げてみると、世の中で免疫チェックポイント抗体に抵抗性のある患者さんを何とかするために必要といわれている
「免疫原性細胞死」
「免疫を抑制しているマクロファージの働きの解除」
という重要ポイントの2つをCBP501が実現していることに気づきました。
そこでマウスの実験をやってみたところ、思ったとおり、免疫チェックポイント抗体との併用で劇的な効果を示しました。
ブログにも少し書いたことがあるんですが、下を向いてCBP501の失敗理由の解明に没頭していて、ようやくわかったと思ってパッと顔を上げたら、周りが免疫一色に染まっていて、自分たちのCBP501がそれにドンピシャで当たっていた、そういう印象です。

提携の世界には流行り廃りがある

(山崎)
先ほど「そちらの方向に行ったのは良かった」と申し上げたのは、まさにそこなんです。
製薬企業との提携という点に焦点を当てるならば、もうお気づきのことと思いますけど、製薬企業の欲しがるシーズというのはどうしてもその時の流行り廃り、流行と言ったら変ですけれど、その影響はかなり受けますよね。
免疫療法などというのも、ほんの何年か前だったら完全に馬鹿にされていました。
たぶん一番それにお怒りなのは本庶先生だと思いますが(笑)
かつて細胞傷害性抗癌剤があって、その次に登場したのが分子標的薬で、それが流行りの頃は猫も杓子も「細胞傷害性抗癌剤など要らない」、まして免疫療法などというと「そんないかがわしいもの」と(笑)
ところが、掌を返したように、今やもう免疫療法でないなら話を聞かないと、そういう状態ですよね。
だからやはり、提携というものを狙っていくならどうしても、良い悪いは別にして、製薬企業が欲しがるものが何かを考慮しなければいけないわけですから、そうした「創薬トレンド」は踏まえて行かなきゃならない。
それはビジネスである以上は避けて通れない部分だと思っています。
ですから、結果論かもしれないけれど、「癌免疫」という方向にキャンバスがグッと舵を切ったのは、今後の提携獲得の可能性を見る上においては、間違いなく強い武器になるなと私も感じています。

(河邊)
はい、私たちもそう考えています。
もうひとつ、私がとても嬉しかったことがあります。
もともとキャンバスを始めるずっと前から「癌を治したい」と思ってきて、キャンバスで抗癌剤開発の世界に入ってきたわけですが、これまで進行癌の患者さんについては「全体として余命を数ヶ月伸ばすのが精一杯」というのが細胞傷害性抗癌剤や分子標的薬の限界でした。
自分が生きている間に癌を治すなどというのは夢の夢で、せいぜい数ヶ月の余命を伸ばすことができればそれが精一杯かなと思っていました。
ところが免疫チェックポイント抗体の時代になって、一部の患者さんではありますが「治る」に近いような状態に持っていけるというお薬が登場して、しかもひょっとしたら自分たちの化合物がその反応する人・「治る」に近づく人の割合を増やすという可能性が見えてきて、自分の目指してきた夢がまた手元に戻ってきたんですね。
そういう喜びもあって、もちろん「結果が出れば」ですけれど、方向として物凄く運がいいというか、目指すべきものがもう一度見え始めたという感覚です。

(山崎)
特に最近では、大手製薬企業はもれなく免疫チェックポイント阻害剤を中心とするいわゆる免疫療法をやっておられて、その限界も見えてきて、あとはその効果をいかにして上げるか、まさに「併用薬」というところに注目が移ってきている。
そのおかげでもあるんでしょうけれど、最近プラチナ系の抗癌剤をやっているベンチャーさんにお会いしたときも、なんとか免疫チェックポイント阻害剤との合わせ技で自分たちのシーズの価値を上げて提携に持ち込みたいとおっしゃっていました。
今、キャンバスは3剤併用ということで臨床試験をやっておられて、本当にこの結果次第では十分に提携獲得というところに至られる可能性も出てきています。
少なくとも、以前の「シスプラチンの効果を上げる」というコンセプト以上に、免疫系という今の抗癌剤創薬トレンドの真ん中に乗ってきていると思います。
だからこそ、皆さんの質問も「それなのになぜ、なかなか提携に至らないのか」というところに集中しがちですね(笑)

ハードルを打破するのは臨床試験の結果だ

(河邊)
提携に至っていない理由はいくつかあります。
ひとつには、分子標的薬の流れの頃と同じハードルです。
いわゆる分子標的薬というのは作用すると主張するシグナル伝達系がシンプルで、「ここを押さえるとそのシグナルは止まる」のような、シンプルなスイッチON/OFFの経路の分子が標的になっています。
世界的超大手製薬企業では、事業開発の人たちが「こういう標的分子のものを獲ってこい」と指示されています。
そんな中で、CBP501の作用するカルモジュリンというのはシンプルでなく、あまりにもたくさんのことをしている分子です。
世の中には「カルモジュリン阻害剤」というものが既にいくつもあり、それらがさまざまな役割をしています。
そのせいで、「カルモジュリンが標的」という時点で話を聞いてもらえなくなる。

(山崎)
ええ、製薬企業にそういう傾向は強いですね。

(河邊)
そして、まさにそういう分子だから、フェノタイプ(細胞全体の挙動)に着目したスクリーニングでなければ見つけられません。
キャンバスのフェノタイプスクリーニングのメリットでもあるのですが、製薬企業さんには聞く価値がないというレッテルを貼られてしまいます。
そこが提携交渉のハードルになっています。
このハードルを越えるには、もはや臨床試験のデータしかない。
たとえばキナーゼ阻害剤の世界では、単一のキナーゼを阻害するのでなく複数を阻害するいわゆる「ダーティドラッグ」のほうが良いという話になってきています。
そうなったのは、臨床の結果がそのほうが良いからです。
臨床の結果が良ければ覆せる。
なので、今やっている臨床試験のデータ・結果というのが本当に社運を賭けた勝負だと考えています。

(山崎)
まったくそうですね。
他の「カルモジュリン阻害剤」で出ているような副作用がCBP501で出ているわけではないですよね?

(河邊)
はい、出ていません。
カルモジュリン阻害剤というものがとてもたくさんある中でひとつ典型的なものとして、統合失調症のお薬のように中枢神経系に効くタイプのものがあるのですが、CBP501は中枢神経系に行かないので、その点は心配も効果もありません。
他のタイプのカルモジュリン阻害剤だと、たとえばメリチンというハチの毒にカルモジュリン阻害作用があり、すこし濃度を増やすと細胞を殺してしまうのですが、CBP501はいくら濃度を上げても、細胞周期が止まる程度のこと以外には何も起きません。
また、プラチナ流入促進で見ると、たとえば統合失調症のお薬であるトリフルオロペラジンというカルモジュリン阻害剤はプラチナ流入を一切促進しません。
一方、他のカルモジュリン阻害剤たちは、上手に使うと弱いながらプラチナ流入を促進しますし、メリチンは比較的強くプラチナ流入を促進します。
というふうに、ひとことでカルモジュリン阻害剤と言ってもそれぞれ作用が違います。
その理由は、カルモジュリンという分子がとても大きくてフレキシブルな構造で、他の分子がくっついたときに構造が変わり、それによってパートナーとの接触が変わるという特性です。
CBP501の働きは、どのパートナーへの作用をどの程度変えるかという、まさに音楽のイコライザーのように、強弱を調節するようなイメージなんですね。
だから「カルモジュリン阻害剤」でなく「カルモジュリンモジュレータ」と称しています。

(山崎)
なるほど。よくわかります。

(河邊)
ですが、そういう話は「1+1=2」のようなわかりやすさがなく、ちょっとボヤッとした印象を持たれてしまいます。
だからやはり臨床の結果、できれば劇的な臨床の結果を見せるしかないなと。

(山崎)
「カルモジュリン」という言葉だけで引っかかられてしまうわけですね。

(河邊)
そうですね。
実際のところカルモジュリンは、1980年代にまだ癌細胞が何なのかよくわかっていなかった頃、癌細胞と正常細胞の違いを調べていた人たちのたどり着いた最初の分子のうちのひとつです。
カルシウム・カルモジュリン系の機能が昂進していると。
その事実からもわかるとおり、カルモジュリンの作用がとても大事な根幹のできごとであることには間違いありません。
ですが、そこをターゲットにした抗癌剤は獲得されていません。
また、製薬企業の事業開発担当者の方の中には、ご自分が学生の頃にカルモジュリンは知っていたということで、その何十年も前の古い知識や先入観だけで切り捨てる方もおられました。
作用の違いとしては、先ほど話したプラチナ流入の話や毒性の話は示すことができているんです。
その他にも、たとえば前出のトリフルオロペラジンなどは、CBP501によるプラチナ流入を阻害できるんですよ。
つまり、同じカルモジュリンに作用してCBP501の作用をブロックできるという、キャンバスの主張しているコンセプトの一部を証明するようなできごとも起きています。
でも、そこまで話を聞いてくれない製薬企業さんは多いですね。

(山崎)
そうですね。
製薬企業がキーワードで引っかかって話が止まってしまう例は私もしばしば耳にします。
たとえばペプチドリームさんでは、会長になられた窪田さんと上場前にお会いしていろいろお話をしているとき、
「『特殊ペプチド』というネーミングは失敗したかな」
とよくおっしゃっていました。
今はもうさすがにそういうことを言う製薬企業はいませんが、当時はかなりそれを悩んでおられました。
せっかく『特殊』とつけているにもかかわらず、『ペプチド』という言葉を言った途端に、特に日本の製薬企業はかつてペプチドが薬にならなかった苦い経験を持っていて、それだけでもう嫌がられてしまうと。
それを大変嘆いておられました。
結果としてその後は大手製薬企業と提携して、それからどんどん契約が増え、晴れて「ペプチドとは違う特殊ペプチド」というポジションがはっきりして、ようやくそういった言葉だけからの誤解はなくなってきているようですが、ともあれどうしても、そういう入り口での引っ掛かりというのはあるんでしょうね。

(河邊)
そうですね、キーワードのハードルは確かにあると思います。
「カルモジュリン」という言葉だけでなく「フェノタイプスクリーニング」という言葉でも切られてきました。
今でこそフェノタイプスクリーニングが大事という見直しの流れになっていますが、一時期はフェノタイプスクリーニングはイコール「古い」「胡散臭い」というのがありました。
ペプチドリームさんのようなプラットフォーマーの場合は多数の契約を取れるので、小さくても良いから1社と契約が取れればそこから次々と広がっていくということが可能なのですが、私たちの場合は契約が1化合物1つしか基本的に取れません。
1つしか取れませんから「小さくても良い」というわけにはいかず、その1つを比較的大きな契約にすることが期待されます。
小さな契約を積み上げていってだんだん大きくしていくという手法が採れません。

(山崎)
その難しさはありますね。

併用での効果を切り口に提携交渉を続けている

(山崎)
とはいえ、提携交渉はずっと続いているのだと思います。
確か1年前のアナリスト説明会だったでしょうか、「交渉相手はどういった相手先か」と私から質問させていただいたとき、「免疫チェックポイント抗体を上市済みの製薬企業だけでなくそれ以外も対象にしています」というご回答だったのですが、現状はどのような相手先との交渉になっているんですか?

(河邊)
「上市した免疫チェックポイント抗体を持っている製薬企業」というのが、我々から見て最も優先順位の高い対象です。
現在の臨床試験のデータが出始めて、興味を示していただけていると感じています。
また、「まだ上市には至っていないけれども自前で免疫チェックポイント抗体を作っている製薬企業」もあり、CBP501の提携交渉候補先として重要と考えています。

(山崎)
そのふたつの優先度が高いわけですね。

(河邊)
はい。
一方、「免疫チェックポイント抗体を持っていない製薬企業」にも、併用薬を持つことで市場に存在感を示すということでCBP501に興味を持たれるかもしれないと考えてアプローチしているのですが、残念ながら多くの場合、私たちの期待とは違って弱気な反応です。
「もう今から免疫チェックポイント阻害剤の競争には入れない」
「免疫チェックポイント阻害剤は高価だから併用の臨床試験が高くつく」
といった理由を挙げて断られます。
まあ「お断り」の口実として適当なことをおっしゃっているだけなのかもしれませんが。
そういった状況なので、もちろん例外はありますが、「上市した免疫チェックポイント抗体を持っている製薬企業」と「まだ上市には至っていないけれども自前で免疫チェックポイント抗体を作っていて、これから競争に参入して勝とうと考えている製薬企業」が私たちにとって優先順位の高い交渉相手先ということになります。

(山崎)
免疫チェックポイント抗体としてPD-1とPD-L1の両方が出ている中で、どちらかというとPD-1陣営の勢力が強くなっていて、PD-L1陣営に何か新しい武器をもたせられないかといった話をよく聞きます。
現在のキャンバスの臨床試験はPD-1のほうを併用薬としておられますが、PD-L1陣営の製薬企業からの関心はいかがですか。

(河邊)
少し前までは、PD-L1陣営の製薬企業は、まずは他の免疫チェックポイントや免疫アクセラレータ ~CD40とか、OX40とか~ に興味が向き、現実に多数の提携もしていて、キャンバスの提案する併用薬については優先順位の低い状態でした。
ただ直近では、他の免疫チェックポイントなどのほうでなかなか良い結果が出ないということ、さらには、他の臨床試験等でも免疫チェックポイント抗体と細胞傷害性抗癌剤の組み合わせが良いデータを出して承認も次々に出ていることから、状況が変わってきました。
そうした最新情報に敏感な事業開発担当者の中に、臨床試験で奏効が出たというキャンバスからのプレスリリースに興味を示す人が出始めています。
これが現実の提携獲得に繋がるまで進むかどうかとなるとまだハードルがあると思うのですが、それを越えるにはやはり、繰り返しになりますが、臨床試験の結果ですね。

(山崎)
なるほど。

(河邊)
先ほどおっしゃったとおり、PD-1、メルクのキイトルーダが、頭一つ抜け出している印象があります。
臨床の現場にいるキーオピニオンリーダーたちも、他と少し活性が違うんじゃないかと言い始めている。
その状況からすると、他の製薬企業さんたちは何か新しい武器がほしいところだと考えられます。

臨床試験の結果で見方はガラッと変わる

(山崎)
キイトルーダとプラチナ系抗癌剤との併用効果がASCOで発表されたとき「えっ、こういう組み合わせってアリなんだ」と正直なところ驚きでした。
そのとき河邊さんとの面談の機会があって、詳しく解説していただいたのを覚えています(笑)
あのあたりから、併用への見方がかわりましたよね。
それに関連する新しいメカニズムの解明といった方向に進んでいる。
やはり抗癌剤というのは「やってみないとわからない」ものだと、あのときつくづく感じたものです。

(河邊)
あの当時はたぶん、製薬企業さんたちの考えとしては、細胞傷害性抗癌剤との組み合わせは臨床試験のアームのひとつというイメージだったのだと思います。
それが意外に臨床試験で奏効が出て、さまざまな併用の中で細胞傷害性抗癌剤の格がどんどん上がっていった。

(山崎)
そうですよね。

(河邊)
実は、基礎研究者の間には「細胞傷害性抗癌剤は免疫系への作用で効いている」と言う人が昔からたくさんいたんです。
細胞傷害性抗癌剤と免疫チェックポイント抗体の併用で効果が上がったことで、やっと、そこに製薬企業が耳を傾けてくれるようになったという状況です。
ここでもやはり、臨床試験の結果が何より力を持つということだと思います。

(山崎)
そうですね。
ところが、細胞傷害性抗癌剤と免疫系抗癌剤が相反する働きをしていると思い込んでいるぶんには、なかなかそれ以上聞く耳を持てない。
さきほどの「カルモジュリン」の話と同じですね(笑)
臨床試験で、思い込みと違う結果が出てくると、「あれっ」と見方がぜんぜん変わってくるものなのでしょう。

びっくりするようなデータを期待している

(河邊)
今キャンバスが進めているCBP501臨床試験は3月末にAACR発表を控えていますが、山崎さんはどういった点を注目しておられますか。

(山崎)
できるならば、
「あっ、なんかちょっと良いな、良さそうだな」
というのでなく、皆さんがびっくりするようなデータが出てくることが望ましいですよね。
皆さんの考えを全くひっくり返すような。
最近では、モノになどならないだろうとあれだけ言われていたのがひとつの結果でガラッと変わったCAR-Tがいちばん良い例です。
既存の治療では如何ともしがたいものに対してあれだけの成果を出されたら、遺伝子治療を誰もが認めざるを得ない。
そういった強烈なインパクトがありました。

膵臓癌や直腸大腸癌といった既存のお薬の効かないところで、皆さんが驚くような結果が出てくると、キャンバスに対する見方はずいぶん変わるのだろうと思います。

(河邊)
それによって製薬企業からの見方が変わることは本当に期待しています。

第3回に続く)

※この対談は2019年3月19日に行われたものです。できる限り正確を期していますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません。また、この対談記事は当社および業界等に関する情報の提供のみを目的としたものであり、売買の勧誘を目的としたものではありません。