マネジメントブログ

臨床試験データ比較検討の現場をお見せします(第3回)

前回までの2回にわたって、
「比較しようとする臨床試験が有している特徴のひとつひとつに留意しながら、類似の臨床試験のデータと比べるべき」
ということ、そして
「CBP501フェーズ1b試験が有している特徴」
をご説明しました。
今回から、本題のCBP501フェーズ1b試験データの感触をつかむための比較検討を始めます。

なお、CBP501フェーズ1b試験は、前半部分(用量漸増相)17症例での感触を踏まえ、後半部分(拡大相)では「膵臓癌」「MSS直腸大腸癌」の2つに絞って進行していますが、この連載では、話を単純化するために、それらのうち「膵臓癌」に絞ってご説明することにします。
予めご了承ください。

※お願い
本連載の初回に、本連載をお読みいただくにあたってご留意いただきたい点をまとめてあります。お手数ですが初回から順にお読みくださるようお願いします。

✽ ✽ ✽

その前に少しだけ、前回の補遺情報です。

「初回」、「2回目」、「3回目以降」と、奏効率、病勢安定化率、無増悪生存期間、そして当然ですが、全生存期間が大きく変わることがわかっています

https://www.canbas.co.jp/2019/12/12/20191211-02/

について、どのくらい「大きく」変わるかを報告している最近の中国からの論文をご紹介します。

この論文は、2015年から2017年の間に、北京のある病院で免疫チェックポイント阻害抗体単独あるいは他の治療法との組み合わせの治療を受けた膵臓癌患者さんの全生存期間について、
・初回治療の場合 7.0ヶ月
・2回目治療の場合 5.1ヶ月
・3回目以降治療の場合 2.8ヶ月
と報告しています。
(Sun et al., Therapeutics and Clinical Risk Management, 2018:14 1691-1700)
これほど異なるのですから、対象患者群の既治療歴を考慮しない臨床試験間比較の議論に意味がないことは明白です。

(なお、この中国の論文の数字が全般に良いことに驚いた方もおられるかもしれません。一般的に、日本を含むアジア人の数字は、欧米人の数字に比べて良い傾向にあります。細かい比較の際にはそんなことも考慮しますが、本連載では割愛します)

公表されている他の臨床試験データと比較する

CBP501フェーズ1b試験について現時点までにキャンバスが公表している最新の途中経過の数字は、以下の表の中に(参考)として最下段にお示ししている
「奏効率25%(1/4)」
「病勢コントロール率50%(2/4)」
と、その右側のグレー網掛けの部分です。

今年8月半ばに手元で集計したもので、8月22日開催の決算説明会9月26日の株主報告会でお示ししました。

(出所: MedPage Today, July 23 2018, by Leah Lawrence)

■ Durvalumab + Tremelimab臨床試験との比較

この表の上2段に英語で書かれているのは、私たちの臨床試験の比較相手になり得るデータです。

Durvalumabはニボルマブ(オプジーボ)と似た働きをする抗PD-L1抗体、Tremelimabは別の種類の免疫チェックポイント阻害抗体(抗CTLA-4抗体)です。
免疫チェックポイントとして有力な(既に承認されたお薬のある)分子「PD-(L)1」と「CTLA-4」を両方阻害するのですから、理屈の上では、Durvalumab + Tremelimabは、現在承認されている免疫チェックポイント阻害抗体の作用機序としては最強の組み合わせになります。

表には、これらふたつを組み合わせた投与とDurvalumab単独の投与を比較した、膵臓癌の臨床試験のデータが示されています。
この臨床試験の対象は主に2回目治療の患者群で、全体で65人が組入れられました。

その結果は、Durvalumab + Tremelimabで、
・奏効率(腫瘍が小さくなった症例の率)3.1%
・3ヶ月の病勢コントロール率(腫瘍が小さくなった症例の率+腫瘍がほとんど大きくならなかった病勢安定の症例の率)9.8%
・PFS(腫瘍が大きくならずに生存した期間の中央値) 1.5ヶ月
・OS(腫瘍のサイズに関わらず生存した期間、つまり、いわゆる生存期間の中央値) 3ヶ月
というものでした。
https://www.medpagetoday.com/hematologyoncology/hematology/81168

CBP501の試験に入っていただいているのは3回目以降治療患者さんが大部分ですから、この試験よりも効きにくい患者群が対象です。
したがって、私たちの試験でこれらを下回る数字が出たとしても不思議ではありません。
その場合の取扱いは微妙ですが、私たちは「失敗」と考えることにしています。

しかし逆に言えば、これらと同等か、これらを上回る数値が得られたとしたら、
「CBP501の薬効の兆候」「手応え」
と考えることができます。

そして、CBP501の途中経過データ(参考値。このあとこの表示から上下どちらにも変わる可能性があります)は、さきほどの表の最下段に記載しているとおりです。

規模の小さい試験のデータなので信頼性は高くないものの、奏効率と病勢コントロール率は、今のところCBP501はDurvalumab + Tremelimabをずいぶん上回っています。
PFSとOSでも比較相手を上回っていますから、これを見る範囲では「感触が良い」と言って良さそうです。

■ リゴラフェニブ臨床試験との比較

もうひとつの比較をご紹介しましょう。
私たちの対象患者集団と似ていると思われる患者集団に関する最近の文献情報として、次のようなものがありました。

リゴラフェニブという血管新生阻害系の新薬を使った、既治療歴のある膵臓癌患者さん20名の臨床試験結果です。

その結果は、
・PFS 1.7ヶ月
・奏効率 0%
・病勢コントロール率 20%
でした。
(Future Oncol. 2019 Dec;15(35):4009-4017. Bozzarelli et al.) 

20名の既治療歴の内訳は、1=15%、2=75%、3以上=10%です。
私たちの試験の被験者の既治療歴は現時点で未公表ですが、このリゴラフェニブ臨床試験よりも既治療歴3以上の比率がかなり高くなっています。
つまり、さきほど比較したDurvalumab + Tremelimabと同様に、CBP501臨床試験よりも効きやすい患者群が対象であることを念頭に置いて比較することになります。

再度、CBP501の途中経過データ(参考値)と見比べてみてください。
やはり、これを見る範囲では「感触が良い」と言って良さそうです。

✽ ✽ ✽

以上、2つの比較検討を簡単にご紹介しました。
一般のかたがたにもご理解いただきやすいシンプルな比較事例と思われます。

このような比較だけでも「感触が良い」とは言えるものの、十分な比較検討のため、また、説得力を強めるために、キャンバスはさらにいくつもの比較検討を実施しています。

次回は、少し複雑になってしまいますが、そのものズバリではないデータから合理的に推定した数値との比較検討の事例をご紹介します。

(第4回に続く)