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創薬パイプラインの価値を考える(1)

2018年11月08日 16:00

加登住 眞

以前のブログに、「いずれ稿を改めてしっかりとお伝えしたいと思います」と書いたことがあります。
研究開発段階のバイオベンチャーの価値評価について私たちの考えていることを、いつかまとめて書かねばとかねがね思っていました。
さまざまな適時開示や説明をはじめとするキャンバスの開示や活動はすべてその考えに基づいてなされていて、投資家の皆さんとの間に共通認識のないままでは、発信者の意図どおりに情報を受け取っていただけないおそれがあるからです。

また同時に、企業活動は企業の価値を最大化することが目的ですから、私たちが日々何を目指して業務しているかをご説明することにもなると思います。
それらの要素を盛り込みつつ書いていくので、この連載は少し長くなりそうですが、ゆっくりお付き合いいただければ幸いです。
過去のブログ記事の記述との重複も多くなりそうですが、お許しいただきたく。

適時開示の意義

まず、適時開示の意義の基本から再度始めましょう。

上場企業の適時開示は、取引所規則に基づいて実施されています。
その意義は今さら言うまでもなく、投資者の投資判断に重要な影響を与える最新の会社情報を、迅速・正確かつ公平に投資家に提供すること。
重要な会社情報の開示が適時適切に行われることは、自己責任原則のもとで株式投資を行っていただくための大前提であり、最も大切な価値として参加者や関係者が一人残らず守らねばなりません。

キャンバスも、この意義を深く理解して適時開示を実施しています。
また、適時開示をより深く正確にご理解いただくために、このブログをはじめとした一方通行でないインベスター・リレーションズ(IR)にも、力を入れているつもりです。

(※ところでお知らせです。
年内に東京で開催される個人投資家向けセミナーに河邊が登壇することになりました。
詳細が決まり次第、改めてお知らせします)

「投資判断に重要な影響を与える情報」

適時開示しなければならない情報は、
「投資判断に重要な影響を与える上場会社の業務、運営又は業績等に関する情報」
と定められています。

発生した事実や意思決定と短期的な業績とのつながりが一般にもわかりやすい業態ならばともかく、長い研究開発段階の途上にあるキャンバスのような会社にとって、この「投資判断に重要な影響を与える情報」の範囲や基準は必ずしも明確でありません。

ですが、だからといって売上やキャッシュの出入り、提携パートナーの獲得など、目先の数字がわかりやすく動くものだけが「投資判断に重要な影響を与える情報」でないことは明らかです。
キャンバスのような研究開発段階の会社に投資する投資家がそれだけを見ているはずがありません。

キャンバスにとって「投資判断に重要な影響を与える情報」とは何でしょう。

パイプライン価値

そこで登場するのが(というほど勿体振って出すものでもないのですが)「パイプライン価値」という考え方です。
研究開発段階のバイオベンチャーの企業価値は、研究開発途上のパイプラインの価値の総和と考えることができます。
多くのバイオベンチャーやアナリストはこの考え方を採用していますし、先日公表されたIFISのANALYSTNET企業レポートでも、この考え方が根底にあります。

そこで、キャンバスを含む多くのバイオベンチャーは、中長期的に想定される個別のパイプラインの価値に変動を生じさせる情報を「投資判断に重要な影響を与える情報」と位置づけて、適時開示の対象としています。

さらに、この考え方を元に、発生したり決定したりした事実だけでなく、その意味するところ ~想定企業価値・パイプライン価値がその事実によってどのように動くのか~ を投資家各自の尺度で判断していただくための情報が、併せて提供されています。

そう書くと単純ですが、現実にはなかなか複雑です。
研究開発段階のパイプラインの価値(に限らず、現時点で売上や利益が出ておらずPERなどの簡易な指標が使えないベンチャーの価値評価全般に言えることですが)の評価についてはさまざまな考え方があり、どれかによる計算結果だけが正解というわけではありません。
また、かりに「正解」があったとしても、短期的な企業価値(すなわち株価)がそこに向かって動くわけでもありません。

とはいえ、
「短期的には上下があったとしても長い目で見たときにこのあたりに収斂するんじゃないだろうか」
と考える軸はあるはずです。
また、かりにそれが特定の値でなかったとしても、何らかの出来事が起きたときに
「これによってパイプラインの価値はどの程度増えるのか減るのか」
という相対的な見方はできるはずです。

というわけで次回から数回に分けて、私たちの考える「パイプラインの価値」とその変動について、大胆に単純化したモデルを元に書いていきます。

各方面のプロフェッショナルの方々には「何という雑なことを書いているのか」と笑われ怒られるかもしれませんが、幅広い方々にご理解いただくことを最優先し、ひととおりのことはわかった上で敢えて細部を捨象して書いているということでご寛恕ください。

(なお、きっと指摘されるので先に書いておきます。
バイオベンチャーの時価総額やパイプラインの価値を語るとき、製薬企業等との提携の有無やその内容は避けて通れません。
「製薬会社等との提携」は、このあと書くような要素を製薬会社等が評価した結果、製薬会社等が「提携に伴うコストやリスクに見合うリターンがあると判断した」ということの表れです。
これは、パイプライン価値評価の代理指標として、もちろん参考にできるものです。
ですが、「それがないなら価値がない/低い」とか「それがある/ない間は価値が変動しない」というわけではありません。
提携の有無にかかわらず、パイプラインの価値はさまざまな見方で判断が可能だし、さまざまな要因で変動します。
これから始める説明は、代理指標を使わず直接的にパイプラインの価値やその変動を見ようとするものです。)

(続く)

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