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「分子標的薬」にまつわる雑感(1)

2018年11月01日 12:00

河邊 拓己

私は、「分子標的薬」という薬剤や薬剤候補の分類方法が嫌いです。

この言葉は、テレビや新聞だけでなく、医師やアナリスト、製薬会社との提携交渉の窓口である事業開発担当者の多くにも、似たような意味で使われているようです。
そのため私は、これまで何百回となく
「CBP501は分子標的薬ですか?」
と聞かれてきました。
そのたびに、
「質問の意味がわかりません」
または
「あなたの考えている定義は何ですか? たぶん、私が思う定義とは異なります」
と心の中でつぶやきながら、嫌々説明をします。

いくら説明をしても「分子標的薬かどうか」にこだわられ、途中で面倒になって不本意ながら
「はい、ひとつの分子に働くので分子標的薬です」
と答えたことまであったほどです。

今回のブログ(何回かに連載します)は、その「違和感」にまつわる雑感です。

「分子標的薬」って、もともとは
「標的分子をあらかじめ設定しておこなわれる創薬活動」
を意味する言葉として始まった記憶があるのですが、いつしか
「ある標的分子に結合して作用する薬」
という意味で使われるようになってますよね。

でも、標的分子にくっつかないで作用する薬剤なんて、あるのでしょうか。
浅学の私が思いつくのは、・・・純粋にpH調整のために使われるような薬剤ぐらい・・かな。

ほとんどすべての薬剤は、何らかの分子に結合して働きます。
高血圧のお薬も、糖尿病のお薬も、高脂質血漿のお薬も、はたまた解熱剤だって。
あの古典的医薬品アスピリンも、シクロオキシゲナーゼを不可逆的に阻害するというれっきとした標的分子のある「分子標的薬」です。

では、抗癌剤だけの話をしているのでしょうか?

いや、「従来型」「細胞傷害性」などと呼ばれ分子標的薬と区別される抗癌剤でも同じです。
例えば、従来型抗癌剤の代謝拮抗剤だって、それぞれ特別な代謝酵素に接触して阻害して作用をするのですし、DNAをはじめRNAや蛋白と共有結合を作って作用する抗癌剤の白金製剤だって、作用する相手(分子)はたくさんですが、抗癌活性を示すのは、そのうちの限られた数の分子と共有結合を作るからです。

癌の分子生物学の世界で一・二を争うほど有名なDr. Vogelsteinも、2010年に行われた米国癌学会(AACR)総会のプレナリー講演で
「分子標的薬という分類は変だ。白金製剤も分子標的薬だ」
と仰っていました。
私も心の底からそう思います。

思い返すと、2000年頃から、慢性骨髄性白血病のグリーベックが、BcrとAblという2つのタンパク質が融合してできたリン酸化酵素に特異的に作用して劇的な抗癌効果を示したことから、「魔法の弾丸」とか「分子標的薬」といった言葉が頻用されるようになった気がします。

その後も、各種のリン酸化酵素や細胞表面にある各種受容体など特定の分子の働きを抑えていると「称する」抗癌剤の開発が盛んになり、ますます分子標的薬という言葉が盛んに使われるようになりました。

「称する」といったのには、わけがあります。
もちろん、嘘を言っていると言いたいわけではありません。

基礎研究者の目で見れば、多くの場合、ある特定のリン酸化酵素を阻害する薬剤といわれるものは、製作者が主張している単一の分子に働くだけではなく、程度の差はあれ、それ以外の多数のリン酸化酵素にも働くことがわかっています。
つまり、「魔法」のように特定の分子にだけ働くものではないのです。

初めの頃こそ、できるだけシャープに単一分子に働く「魔法の弾丸」が良いといわれていたのですが、その後、2000年代からさまざまな薬剤候補で臨床試験が行われた結果、そもそも「魔法の弾丸」だと思っていたグリーベックを始め、殆どの薬剤は、複数の分子に働いていることが明らかになりました。
また、実際の臨床試験で、複数の分子に働く薬剤のほうが効果が高い傾向にあることが多かったことも明らかになりました。

その結果、「ダーティードラッグ」(複数のリン酸化酵素を阻害する薬剤)のほうが良いということが言われるようになりました。
実際に、2010年前後からFDAに承認されているリン酸化酵素阻害型の抗癌剤の多くは、この「ダーティードラッグ」です。

これは私だけが言っているのではなく、既に基礎研究者から臨床開発まで幅広く知られている現実です。
この歴史を踏まえると、いまだに「分子標的薬か否か」で分類するのがいかに無意味なことかおわかりいただけると思います。

それなのになぜか今も、「CBP501は分子標的薬ですか?」という質問が繰り返されています。

(つづく)

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