マネジメントブログ

CBS9106臨床試験スタート!

キャンバスの創出した抗癌剤候補化合物CBS9106をライセンスしているStemline社から、臨床試験が始まったと嬉しい知らせが届きました。

私たちも本日朝、プレスリリースを開示しています。
CBS9106(SL-801)臨床第1相試験開始および開始用量の投与完了のお知らせ

臨床第1相試験は通常、「用量漸増試験」という手法を採ります。

今回のCBS9106の試験もそうです。
新たな薬剤候補化合物の最初の臨床第1相試験(初めてヒトに投与するので「First-in-Human」といいます)では特に、それまでの非臨床試験データをもとに、まず間違いなくヒトで重篤な事故が発生しないであろうと考えられるようなきわめて低い用量からスタートします。
(この手法が確立してから、従来型の抗癌剤候補で重大な事故は起きなくなったと言われていますが、この手法が通用しない抗体医薬や、手法からの逸脱があった場合に、想定外の事故が起きたことはあります。)
その最初の用量を「開始用量」といいます。

被験者の方々に事前にサインしていただくインフォームドコンセントには、
「効果があるかどうかは未知」「想定されていない副作用で生命の危険に至る可能性すらある」
などといった厳しい言葉が連なります。

(抗癌剤臨床第1相試験の被験者は、一般の医薬品のように健康な成人男性ではなく、末期の癌患者様です。
ご自身の闘病の末期にもかかわらず、厳しいインフォームドコンセントをご了解いただき、新規抗癌剤の臨床試験被験者として~~将来の癌患者に良い治療をもたらすために~~奉仕してくださる被験者の方々に、私たちは感謝の念を抱くばかりです。)

そのせいもあって、新規抗癌剤候補化合物の最初の臨床第1相試験では、IND申請が完了し臨床試験実施施設での被験者募集が始まっても、そのあと最初の被験者への投与開始(First Patient In、FPI)までに日数が掛かることがしばしばあります。
2005年に私たちがCBP501の臨床試験を開始したときも、FPIまで思いのほか日数が掛かりました。
Stemline社が早くから「2016年の早期に開始」と表明していたのは、そうした不確実性を十分に考慮して表明していたのだと思います。

今回、私たちにとって予想外だったのは、Stemline社の公表がFPI時点でなく、開始用量対象被験者群への投与完了時点だったことです。
(FPI時点での開示をしなかった理由は公表されておらず、提携パートナーである私たちすらも、勝手な想像を巡らせるしかありません。想像で何か書いてしまうのはマナー違反と思われるので、ここでもコメントを差し控えます。)

ともあれ、開始用量のコホート(被験者群)への投与が無事に完了したことはキャンバスにとっても大変嬉しい知らせで、私たちはホッと胸をなで下ろしています。
どんなに厳密な非臨床試験データを積み上げていても、それは所詮、試験管内や動物のデータでしかありません。
ヒトに投与した途端に予期し得ない大きな副作用が出ていきなり臨床試験が終了してしまうことも、想像の範囲の片隅には置いていました。

このあと、この臨床第1相試験は、あらかじめ定められたステップに則ってコホートごとに用量を上げ、安全性を確認していきます。
動物実験で効果の見られた血中濃度や組織内濃度まで用量を上げることができるかどうかが、このあと最初のハードルになります。
また副次的には、被験者の方々はさまざまな種類の固形癌患者様であり、CBS9106の薬効の兆候を見ることも重要なテーマです。

IND申請完了の際に河邊がこのブログで書いたとおり、まだまだこれからもたくさんのハードルを越えなければ、「薬」になって人の役に立つことにはなりません。
引き続き、臨床試験で起きるあらゆる事象を注意深く観察・解析し、多くのことを学びながら、Stemline社とともに開発を進めていきたいと考えています。

なお、今回のニュースはキャンバスにとってもうひとつ、とても重要な意味があります。
それは、
「臨床試験段階にある【複数】かつ【自社創出】の医薬品候補化合物を有する創薬企業」
になったということです。
キャンバスのようなタイプの創薬企業にとって、この事実の持つ意味は非常に大きいのです。
いわゆる「パイプライン戦略」ですが、これについて語り始めると長くなるので、別の機会に改めてしっかり書くつもりです。